6章

  第六章   過ちと未来

  

 時刻は午後十四時を回っている頃、氷山の氷をも割れそうな声を荒げているものがいた。そう、ストロングだ。ペンギンが居なくなってしまったことで、泣いていたのだ。

「オイラの不甲斐なさで、ペンギンが何処かに行ってしまったよぉおお!うおおおん。」

 ボギーは、冷静に黙ってストロングを見ていた、ボギーは思った。

(ストロングは、前にも同じようなことで、泣いていたな。どうしようもないな、はあ‥こいつは‥腹立つな)

 ボギーの頭の中で何かが切れた音がした。

「コラァ!この熊公!泣くんだったらなぁ、見つかってからにしやがれってんだ!」

 ストロングは、怒声に驚き恐る恐るボギーを見た。

「お前、でけぇ声で泣くんじゃねぇよ!耳が痛いだろうが!あぁ!?」

「‥‥すいません‥。」

「なんだぁ?でかい図体して声が小せえな‥もっと声出せるだろ!大きい声で喋ろや!」

 ストロングは、ボギーが物凄い剣幕で捲し立てるため、驚くよりも恐怖で畏怖された。

「う‥あ‥、す、すいません!」

「よう声がでよるやないか、まぁわしは空から探すけ、お前は地上を走り回れよ。分かったな?」

「はっはい!分かりました!」

「さっさといけ!分かってるとおもうけどな‥お前の責任だからな!」

 ボギーは、空に向かって羽を広げ飛び立っていった。ストロングは、突然罵詈雑言を浴びせられた衝動で一分程動けずにいた。

 その頃、アザラシとペンギンは海岸に移動して話をしていた。

「どこから話しましょうか‥なぜ、一匹なのかというところにしましょう。そうですね、私だけで動くほうが楽なのです。」

「寂しくないのー?」

「えぇ、気楽で良いですよ。」

 シャインは微笑した。

「うっそだー!誰かといたほうが楽しいに決まってる。」

 ペンギンは手足をジタバタさせて声を荒げた。シャインはにやけた顔から真顔になりペンギンを見た後ため息をしてから話し出した。

「‥まあ、いいでしょう。あなたはよく思わなくても私は良いのですから。あと一つ、群れがいないか‥でしたね?」

「うん、なんでー?」

「長くなりますが‥よろしいでしょうか?」

「良いよー。」

 アザラシは空を見つめ淡々と話し始めた。


 私の名前はシャイン、南極大陸では猛獣の地位を持っていると言われているヒョウアザラシだ。皆の中心で輝けれる存在にと両親は名前をつけてくれた。私は、自分で言うのもなんだか照れ臭いが‥気さくな性格で仲間との絆も深めやすく群れのリーダー的存在だった。

「シャインさん!マジパネェっす!これからもよろしくっす!」

「私たちよりも行動力があって、頼れる存在で安心する!」

 皆がしたくないことを率先して行動してきたため常に称賛されていたが、私は特に自慢することなく謙虚な姿勢でいた。

「ありがとう。また皆のために頑張るよ。」毎日が充実した日々だった。

 

 あの出来事が起こるまでは‥。

 

 ある朝、シャインは仲間を引き連れて散歩をしていた。

「シャインさん、もうすぐペンギンの雛シーズンですね。また食い荒らしましょうね。」

 仲間の一人が、ケラケラと笑いながらシャインに話しかけてきた。

「ペンギンには、悪いけどあの肉の旨さはたまんないね。またその時は、お互いに頑張ろう。僕一匹だけじゃなく皆の力で得るもののほうが大きいしね。」

「シャ、シャインさん‥(キュン‥)」

 仲間たちはシャインを尊敬の眼差しで見ていた矢先‥‥ズキューン!と大きな音が鳴り響き、氷が崩れ始めた。

「なんだ!?今の音は!シャインさん、見に行って見ましょう!」アザラシ達は海に潜り音が鳴った所へ一目散に泳いでいった。

 アザラシの泳ぐスピードは、時速約二十キロあり獲物を捕まえるにはうってつけの速さだ。だがペンギンよりは遅い。

 大きい音が鳴った場所の近くの岩場に隠れ、様子を観察した。

 仲間の一匹は、目を薄めてシャインに語りかけた。

「あれは‥何でしょう?うちのアザラシと何かいるような。」

 シャインは、目を見開き事の全てを見抜いた。

「あ、あれは!俺の両親だ!側にいるのは、人間!?なんであんな所に!」

 シャインは人間を見たことがなかったが、両親から人間の姿や脅威については教えられていたため頭で理解できた。

 人間は、アザラシを含め他の動物をも捕獲し何処かへ連れて行かれてしまう。そのことを頭に入れて要注意生物として認識していたのだ。

 シャインは、両親を助け出そうとし体を前に出そうとしたが体が思うように動かせずにいた。動かないのではなく、動けなかった。「このままでは、俺の父さんと母さんが‥!」

「シャインさん‥俺らもなんだかあの生き物が怖いです‥。どうしたら‥。」仲間たちはプルプルと震えている。

(このままだと、父さんや母さんが殺されてしまう‥。どうすれば‥‥。)

 私は、刻一刻迫られる状況の中必死に考えましたが、何も浮かんでこなかったですね。私の両親の背中から血が流れていたことにショックでパニックになっていましたから‥。その時、人間はアザラシ を囲むように四人ほど集まり出した。囲まれたアザラシ が叫んだ。

「シャイン!  すまん‥‥‥。」

 私はその言葉を聞いた刹那、悲しみと怒りが同時に来て言葉にならない声を出した。すると私達に気づいたのか、人間達は私の両親を何処かへ連れ去っていったのだ。

 それから、私は自分を責め続け人間に対する憎悪が膨れ上がっていき、表情も声も変わった。私の仲間たちが心配をして声をかけてくれたけど、私が感情を出して怒り出すため皆離れ離れになってしまったんだ。みんなと離れて沢山後悔したけど、一番の後悔は私の両親を助けるのに何も出来なかった自分がとても情けないと、ずっと思ってる。でも‥いつか、人間どもを食い散らかしてやる、復讐を果たすと私は常々思っている!

 

「こんなところですね。理解できましたかね?」

「なんとなくー。分かった。」

「話は済んだことですし、そろそろあなたを食べようかと‥」

「じゃあボクが友達になってあげるー!」

「へ?」

「今は、誰も周りにいないから、ボクが友達になってあげる!」

「言ってることがよくわかりませんね。いいですか?この世界には同じ種族で共に分かち合って暮していくんですよ?第一、あなたと私では種族が‥‥」

 バン!バン!

 シャインが話しているのをペンギンが足を踏み鳴らし話を止め、ペンギンが話を切り出した。

「種族とか顔が違うとか関係なーい!ボクだってストロングとかボギーとか種族が違っても一緒にいるんだよ?辛いことがあっても一緒にいてあげれる!それが友達!」

 鼻息を荒くシャインに巻く仕立てるペンギン。シャインは、それを聞いて考えていた。

(いつか、仲間のもとへ帰ろうと思っていた。でも信頼を取り戻すにはかなりの時間と労力が必要だ。ペンギンは俺から見て餌の一つだが、友達か‥住まいは違うけど、こういうのもいいかもしれないな。)

 シャインは、ニコっと笑いペンギンの頭を撫でてこう言った。

「ありがとう。こんな俺を友達に誘ってくれて‥迷惑かけるかもしれないけどよろしく。」

「迷惑かけてもそれも許すのが友達!

「それもそうだな‥はは。」

 シャインにとってこのやり取りが懐かしく感じられ仲間と共にいたことを思い出し、泣き笑いし頬に一筋の涙が零れた。

「ペンギン君、また会おう。来た道を辿ればストロング君の所に戻れるから。」

「またねー!バイバーイ!」

 シャインは、ニコリと穏やかな表情をした後その場を離れていった。

 

  一方その頃‥‥。

  

 ストロングは、のそのそと歩きペンギンを探していた。

「おーい。ペンギンやーい。見つからないな‥ボギーに顔向けできないな。」

 その場に座り込みため息を吐いていじけていた。すると、後ろからペタペタと音を出しながら近づいてくるのが聞こえた。

「あのぉ、すいません。」

「え?ペンギン?」

 頭はボサボサで、顔はこけている一匹のペンギンがストロングに話しかけて来た。

 

 

 第六章    完