空ペン 3章

     第三章  

 

 あれからストロングは、餌をあげては言葉を教えてを繰り返していた。元々ストロングは、一人でいることに慣れてはいたが、話し相手が出来たことでより活発になっていた。

「言葉を教えるのって難しいな‥。お腹空いたし、一緒にご飯でも取りに行こうか?」

「プー!」

「じゃあ一緒に行こう!言葉は理解できるなら頭いいな〜。」

 熊と雛が足を揃えて歩いていくのは異様な光景であり、周りに生息している南極熊も困惑している。

「なに、あれ?ペンギンの雛じゃない。なんで、あの臆病で役にも立たないストロングといるのかしら。」

「世間体が悪くなるから、やめてほしいよ。」とヒソヒソと話すがストロングの耳には筒抜けだ。

「ペンギンちゃん、気にするな。オラも気にしない。よくあることだったからなぁ。」

「プー?」

「海までもう少しだから、楽しく行こう。」

 のしのし、ペタペタと歩いて行く。

 そのころ、上空ではナンキョクオオトウゾクカモメが三匹飛んでいた。このカモメは、ペンギンの雛や卵を捕食する生き物である。

「おい、見ろよ。熊と食べ物が歩いているぜ?お前行って捕まえてこいよ。」

「そうだよ、お前捕まえるの下手だし勇気もないから丁度いいんじゃないか?」

「えぇ‥。俺は、今日も魚でいいよ。君らが言う通り下手だしさ。」

「いいから、行けっての。俺らが隙を見つけてやるから。」カモメ達は熊の行動を見張り隙を狙っている。

「おっと、ペンギンちゃん、止まれ。昨日魚を食べすぎたせいかお腹が痛いからそこら辺でうんこしてくるよ。」

「プープププ。」

 ストロングは岩の影で用を足し始めた。

「しめた!今だ行ってこい!」

「うぅ、分かったよ!行きゃいいだろ!?」

 カモメは急降下し、雛を足で捕まえ上空へと連れ出した。

「プ?プゥゥウウウウ!!」

「うーん、うん。もうちょっと待ってて。今日のは強敵だな‥。」

「やればできるじゃねぇか!早速ありつこうぜ!」カモメは涎を垂らしながら言った。

「その前に、おしっこしたいからさ。そこらへんでしてきていいかな?」

「あ?ったくしょうがねぇな!早く済まして連れてこいよ?逃げたらまた親父さんに言うからな!」

「あくしろよ。」

 二匹のカモメは、何処かへ去っていった。

「ごめんね、ペンギンさん。少し飛ぶから暴れないでね。」カモメは、ペンギンを捕まえたまま、一気に加速し誰もこないようなところに連れ出した。

「ここは、俺の秘密の場所。誰も来ないから安心して、あと君は食べないよ。」

「プー?」

「なぜかって?生きたままのペンギンはかわいそうで食べられないのさ。突然だが自己紹介をしよう。俺の名は、ボギーさ。幽霊か妖精か分からないけどそういう由来があるみたい。その通りなんだけどね‥。君は?」

「プー‥。」

「名前が無いのか‥。じゃあペン君と呼ぼうかな。よろしく、これでペン君とは友達だ。」ボギーは、ペンギンの頭を撫でて笑った。すると、ペンギンは手をパタパタとはばかせた。

「何?どうしたの?」

「プー‥プー!」

「んー、空を飛びたいのかな?残念だけど君には無理だね。俺らみたいに羽根がないから空は飛べないかもしれない。

「‥‥プゥ。」

「でも安心して、飛びたくなったら俺が空に連れてってあげるよ。空は良いよね、風に揺られるといい気持ちなんだ。」

 高揚してボギーは空を見ながら語った。

 

 

 その頃、ストロングは泣き叫んでいた。

「ウオオオオン!どこ行ってしまったんだ!ペンギンちゃん‥俺が目を離した隙に消えるなんて。この腹が悪いんだ!」

 ストロングは自分のお腹を自分で殴った。

「痛い‥。探さなきゃ、せっかくできた友達を、守るべきものを!」ストロングは走り回り探し回った。探し回った後には、日が暮れ夜を迎えようとしていた。諦めたストロングは寝床に戻り、うずくまった。

「俺が悪いんだ‥。俺の行いが悪い方向へ招いてしまった結果なんだ。もっと周りに気を配れるような行いをしておけばこんなことにはならなかったんだ‥。」自分を責め込み続け精神を蝕んでいき、悪い方向へと進み始めた。

 ストロングの泣き声が響き周りの熊達は異変に気づき、心配して見に行く者もいた。数日が経過した後も噂は噂を呼び、遠く離れたストロングの先生の耳にも入ってきた。

「なんじゃ?ストロングが泣き叫んでいる声が聞こえたがあやつがまた何かしでかしたのかの。」父親を亡くした後のストロングは他の熊達に迷惑を何度かかけ、代弁者として先生が謝罪をしていたのだ。

「はあ‥最近ないと思ったが、また何かしでかしたのか。腰を上げるのは嫌じゃが見に行くとするか。」重い腰を上げストロングの元へと歩きだした。先生の寝床からストロングの寝床までは、それほど遠くなく走って五分で行けるが、先生は年のせいか腰痛があるため徒歩で十五分かかる道のり、視覚嗅覚聴覚も衰えて鈍くなり自宅では木の実を食べ生活をしている。

 若かりし頃の先生はストロングの父親と交流があり、共に狩りをしていたため当然ストロングの存在も知っていた。父親が亡くなった後は、父親の代わりに言葉遣い、自然の理、生きるための術等を教えた。他の熊達と会わないばかりか先生以外の熊と交流するのが下手であり、いつも一匹で暮らしていたのは先生も手を焼いていた。

(あいつも、もっと他の仲間と交流すればいいんじゃが‥。)

「あ、先生じゃないですか!ご無沙汰しています!ヴィントです!今日はどうしたんですか?」

「おお、ヴィント君じゃないか。実はストロングの遠吠えをしているとの噂を小耳に挟んでな。何か知っとるか?」

「あー‥、存じています。なんでもペンギンの雛と一緒に暮らしていて、そのペンギンが何処か行ってしまったらしいです。」

「むう‥そういうことか。教えてくれてすまんの、ヴィント君。」

 ヴィントは群れの中で最も信頼できるリーダー的存在であり、交流が滅多にないストロングのことは気にしていた。昔はストロングと幼馴染みで、よく遊びよく話していた熊である。大人になるにつれ疎遠になってしまっていた。そうこう話しているうちにストロングの家に着いた。

「では、先生、失礼します。ストロングをよろしくお願いします。」

 ヴィントは、去っていった。

「おい、ストロング。何をしとるんじゃ?皆お前さんのことを心配してるぞ。」

「‥‥。もうほっといてくれ。」

「何じゃ、ここまできてやったのに‥おー腰が痛いわい。それよりペンギンは元気か?」

「はは‥いたけど、どっかに行ってしまった。仲間が出来たと思って大事にしてきたけど、結局オイラをおいてどこかにいったよ‥‥もういいだろ。俺一匹にさせてくれ。」

「声に元気がないようじゃが、ちゃんと食べて‥お前さん、本当にストロングか?」

 精神を蝕みストロングの頬はこけ、身体は細くなっており骨がうっすらと見えていた。

「ろくに飯も食べていないし、病んでおるな。ほれ、わしの夕食木の実を持ってきたぞ。食べんか、昔はよく食べたじゃろ。」

「うう、うるさいジジィだ!オイラのことはほっといてくれよ!二度と関わるな!」

 響きわたるような唸り声と共に先生を食ってかかりそうな勢いで起き上がった。しかし、先生はそれを見て平然としている、それもそのはず、ストロングの目と声は怒っているが体が震えているからだ。

「はあ‥全然怖くないわい。そんな輩は何匹と見てきたからのぉ。いいか?怒りとは、こうやるんじゃ!」

 涎を垂らし牙を出し、爪を尖らせストロングを睨みつけた。ストロングは、その姿を見て全身が震えだし小さくなった。

「ご、ごめんなさい!先生!!ごめんなさい!」

「グルルルルル‥おー、腰が痛いわい。相変わらず怖がりじゃの、怖がりのくせに勝てもしないのに大きな声をあげおって、ちゃんと相手をみるんじゃな。でもな、そういう無謀なところは嫌いじゃないぞ?無謀なことをするのは、勇気が必要じゃからの。さあーて、話を聞こうじゃないか。」

 先生とストロングは、木の実をボリボリと食べながらペンギンの話を始めた。いなくなった経緯、いなくなった場所等を先生に伝えた。それと同時にストロングは誰かと話し合えることで徐々に心に安心が生まれ心を開き始めた。

「大きな岩があるとこで、オイラが用を足していて‥。」

「まて‥あそこは危険な場所と知らなかったのか?わしらは大丈夫だとしてもペンギンにとって‥雛にとってはとても危険な場所じゃぞ!」

「オオトウゾクカモメか!ってことは何処かに行ったんじゃなく、連れ去られた可能性は無きにしも非ずだ!そんなに遠くには行っていないと思うから、明日朝一に探しに行くよ!」

「良い方法じゃが、お前一匹じゃなくわしも巻き込め!あとは‥ヴィント君、おるんじゃろ?」

「はは‥バレてましたか。まあ、思ったより元気で良かった。僕たちも協力するよ。ストロング、君は一匹じゃない、僕たちは見た目は違っても同じ種族、共に助け合うことが大事なんだ。」

「ヴィント‥凄く助かるよ‥あり「おっとお礼は雛が見つかってからにしてくれよ?ただし、君には難しいかもしれないけど、僕と先生とみんなの前で言うんだぞ?」

「背に腹は変えられない!分かった!」

 支え合う仲間は少なくても一匹一匹が声をかければ数珠繋ぎのように連絡が行き次々と増えて明日の捜索には南極熊三十匹が集まることになった。

 

 

 四章に続く