空ペン4しょー

   第四章    

 一方その頃、ボギーとペンギンは空について語っていた。空の雄大さ、偉大さ、そして空を飛んでいるものにしか分からないもの、自由があること。

「悪いことだってあるけど、良いことだってあるんだ。例えば、身内に怒られたことがあっても空に飛んでさ見下ろすと、どの動物もちっこい豆粒にしか見えなくてさ。結局俺らは、ちっさいんだなって思って気分が晴れるってもんよ。へへっ!」

 初めて友達が出来たような嬉しさで、ボギーはペンギンに話していた。ボギーは、生まれながらにして、厳格な父親と母親のもとで育ち、規律正しい生活をしていた。是々非々の躾をされて初めは従っていたがあることで嫌になって両親と疎遠になった。

「何故だ!何故お前は、ペンギンの雛や卵を取ってこないんだ!我々の食事をなくす気か?全く情けない。」 

「本当よね、あなた‥。育て方を間違えたのかしら。」

 両親が激怒されている理由は、ボギーが狩猟をしてこないのが理由であった。前章でもあるように、生きたものをそのまま食べることが出来ないのだ。

 ここで雛の食べ方を紹介しよう。まず捕まえたら嘴で突き絶命させ、嘴で雛の体を突きながら内臓を食べていく、また二匹で協力し一匹は頭を嘴で啄み、もう一匹で皮を剥ぐ作業をし、啄んでいくのである。

「生きているものを殺して食べることは自分には無理です!既に死んでいるものは辛うじて食べることは出来るけど‥。」

 ボギーは必死に伝え弁解しようとしたが、両親は嘲笑った。

「はっはっは!可笑しなことを言うんだな、こいつは!覚えてないかも知らんが、お前がまだ幼い頃はよく私が取ってきたペンギンの雛の肉を食べていたぞ?内臓をな。私たちでも食べないような目玉を嬉しそうに食べていたのにな‥はっはっは!」

「そうよねぇ、目玉を啄んで美味しいって言ってたわね。フフフフ‥。」

 知られたくもない過去を次々と嘲笑しながら話す両親、ボギーの目には悪魔のように見えた。

(やめろ!やめてくれ‥それ以上聞きたくない!)

 ボギーの目から涙が溢れた、怒りと悲しみが混ざったものだった。

「お前らは、もう親でもなんでもない!俺を脅かす悪魔だ!金輪際関わるな!」

 親元を離れ、飛び去って行った。大声を聞いた幼馴染み二匹がボギーに駆け寄ってきた。

「おい、どこに行くんだ?なんか面白そうだから俺たちもついていくぜ?」

「そうそう!餌は俺らに任せな!分け前をくれてやるからさ。」

((こいつを揺さぶれば楽ができそうだ。))

 そして今に至る訳である。

 太陽が沈み真っ暗になった時、ペンギンの体は揺さぶり始めそのまま眠りについた。

(俺の話が長すぎたかな‥自分の嫌なことも思い出してしまった。でもこんなになるまで、俺の話を聞いてくれた奴は、初めてだ。いきなり連れて行って怖かったよな、ごめんな。)

 二匹は寄り添い眠りについた。氷の上は、冷たく体が冷えるほどだったが、何故だか気持ちが良かった。

 日本時間にして、午前九時頃に三十頭以上の南極熊が集まった。ヴィントの号令によるものだ。

「皆さんおはようございます。ヴィントです。先日皆さんもご存知かも知れませんが、ペンギンの雛が何処かへ行きました。自分の子供だと思って捜索をお願いします。また、雛の天敵は非常に多いです。アザラシやカモメ等いるため、名前を呼ばずに声を出してください。では!捜索開始します!」

「「ウオオオオォォォォ!!!」」

 三十匹以上の熊達が天地を揺るがすような声を上げた。一目散に分かれて捜索を開始した。

「皆が自分のために体を張って探してくれているんだ!必ず見つけ出すぞ!」

 ストロングはペンギンが居なくなった場所に着いて必死に探し始めると陰から黒いものがズリズリとこちらに近づいてきた。

「おやおや、誰かと思えば図体は大きいが臆病者のストロング君じゃないか。何かお探しかね?」

「アザラシか‥。あっちに行け!お前と話している暇はない!」

「おお‥怖い怖い‥。でも良ければ力になりますよ。餌さえ貰えればね‥。例えばペンギンの雛とか私は大好物でね。」

 アザラシの口から涎が垂れて牙を出しニヤリとしている。

 ストロングの体がビクリとしたが、ここで臆してはバレてしまうと思い、声を荒げた。

「煩いな!何処かに行かないと、頭からかぶりつくぞ!」

「怖いことを言うねぇ。本当に食べられそうだ‥。お暇しておこう。向こうから君のお仲間が走ってくるからね‥フフフ。」

 アザラシは海に潜り去って行った。

「おい、ストロング!何かあったのか?」

 駆けつけたヴィントが声をかけてきた。

「嫌味ったらしいアザラシが声をかけてきたんだ。」

「あのアザラシか‥名前はシャイン。名前と性格が逆な奴で、食べる気もしない。」

「シャインか、覚えておくか。引き続き探そう。」

 

 一方、カモメと雛はというと、目を覚ましご飯を食べていた。

「魚は美味いか?丸呑みしていったけど、味は分かるのか?」

「プー!」ペンギンは喜んでいる。

「そうか、それは良かった。食べたら元の場所へ連れて帰ってやるから安心しな。」

 朝食を終えて、雛をカモメの足で掴み空に飛び立った。空は真っ青で太陽が出ており地上の雪が太陽に照らされてキラキラと光っている。

「いい天気でいい景色だろう?俺らはいつもこういう景色を眺めているんだ。地上の素晴らしさってものをペンギンも探してみてな。色んなものに溢れてるはずさ!そして、俺は空を、ペンギンは地上の話を聞かせてくれよ?」

「ププー!」

 そうこうしている間に岩場に差し掛かった、今まで静かだった場所から熊の声が沢山聞こえてきた。

「な、なんだ‥ありゃあ‥?南極熊が大勢おるぞ‥。」ボギーはすぐさま迂回をし、岩場にペンギンを降ろして様子を伺った。

「ちょっと耳を澄ませてみるか。静かにしててな。」

 ボギーは耳を済ませ耳に集中した。

「おい、見つかったか?」

「全然ダメだ。静かに話すがなかなかペンギンの雛には出会えんな。リーダーに合わす顔がないよ‥。」

 ボギーは、状況を理解した。どうやら、今隣にいるペンギンを探しているということ、見つかったらまずいことになるということ‥。

「ど、どうすればいいんだ‥。見つかったら大変な目に‥。ええい、なったらなっただ。そこで待っててな!」

 ボギーは身を乗り出し、熊の元に寄って行った。

「こ、こんにちはぁ。オオトウゾクカモメのボギーと申します〜。」

「ん?珍しいのが来たな。何のようだ?」

「君たち熊の中で、一番偉い熊を連れてきてもらえないかな?」

「何故だ?」

「ちょっと小耳に挟んだことがあってね‥君たちはペンギンの雛を探していないかい?有力な情報があるんだ。」

「何だと!?分かった。そこで待っててくれ。グオオォォォン!」

 熊の遠吠えが響き渡る刹那、それを聞いたヴィントとストロングは声の方向に向かって走り出した。

「何だ?何があった?」

「ペンギンの雛の情報を持つ者が現れたんだ!」

「このカモメがか?教え願おう。」

「怒らないで聞いてくれよ。実は‥。」

 ボギーは、ことのあらましを話し始めた。熊達は、初め表情が険しかったが徐々に表情が落ち着いてきた。

「んで、ここにペンギンの雛がいまーす。」

 雛は歩いて熊達の前に出てきた。

「見つかったぞおおおお!!」

 ストロングは、雛を見て涙を流した。

「良かった‥無事で良かった‥。ウオオオオ!」

「プー!」

「カモメさん、ありがとう!事情は後ほど聞きたいから、家まで来てくれないか?」

「あぁ、俺で良ければ、後お腹すいたから何か食わしてくれるとありがたい。」

 ストロングの家に、先生、ヴィント、ペンギン、ボギーが集まった。

 机の上には、木の実や果物等が置かれた。

「改めまして、ナンキョクオオトウゾクカモメのボギーと申します。この度は、誠に申し訳ございません。」

「私は群れのリーダーをしているヴィントです。普通なら最悪の場合あなたに食べられていると思うのですが、どういうことでしょう?」

 ボギーは、生き物が食べれないことと、逃したことなど経緯を話し始めた。

「ふむ、色んな動物がおるんじゃな。勉強になるわい。食べられなくて運が良かったな?ストロング。」

「あぁ、本当に良かった。ヴィント達のおかげだよ! あ、オイラはストロング、よろしくです。」

「よろしく!でも、ペンギンが言葉を話せないから話が出来なくて、困っているんだ。」

「ストロング、お主教えてなかったのか?」

「い、いやぁ‥教えてたんだけどさ‥一行に覚えなくて‥すみません、教え方が分かりませんでした。」

「はあ‥わしもわからんけどな、ここは母熊に任せようかの。ヴィント君、頼んだぞ。」

「熊使いが悪い先生だなぁ。分かりましたよ〜。」

 ヴィントは、不貞腐れながらもニコリと笑い返事をした。そのやりとりにほっこりと場を和ませた。

「さて、そろそろ寝るとするかの。外は猛吹雪じゃ、寝床を借りるぞ。」

「ここにいる皆で寝ようか。安心したら眠くなってきましたよ。」

 ペンギンも欠伸をして、眠りについた。

 朝になり、ヴィントは熊達を集めた。ペンギンの発見、ストロングのお礼会見を開いた。

「皆さん、おはようございます!これよりストロングから挨拶があると思うので、少しお時間をください。では、お願いします。

「皆さん、えーと‥ストロングです。群から離れて一人で暮らしていたけど、今回の件もあってペンギンのことで協力してくださり、ありがとうございます!オイラ‥怖がりで仲間にどう思われている、どんなことを言われているのかも知らなくて、それが怖くて群から離れていました。でも、ペンギンと暮らすうちに仲間のありがたさ、孤独よりも誰かがいる大切さを学びました。一匹では、何もできないことを悟りました。」

 熊達は、言葉はめちゃくちゃだけど、頷きながら聞いていた。仲間はすぐできるものじゃなく、信頼関係が構築されて初めて仲間といえるものである。

「今こうしてこの場に立たせて貰っているのは、自分一匹でなく、皆のおかげです。本当に、ありがとうございます。言いづらいけど、また群に仲間に入れてくれませんか?」

 ストロングは、涙を流し熊達に言った。誰にも話したことがないことを言うのは、勇気が必要である。一匹の熊が立ち上がり、言葉を発した。

「君がそんなに苦しんでるなんて初めて知ったよ、僕らは君のことを分かろうともしなかった。いや、群から離れている時点で分かり合おうともしなかった。」

「わ、私も!何度も言おうとしたけど、噛み付かれそうで怖かった、相手にしてもらえないかと思った。でも、話をしてくれて初めてあなたの気持ちが苦しい程分かりました。」

「今回、勇気を持ってここまで話してくれて気持ちが分かったよ。でもそういうことは、話してくれても良かったんじゃないか?」

「何言ってんだよ、聞く耳もなかった奴が言うんじゃねぇよ。」

「何だと!?お前こそどうなんだ!」

 ストロングの言葉に、立ち上がり賛否両論が繰り広げられるなか、ヴィントが立ち上がった。

「皆さん!争っている場合ではないです。仲間にするかどうかは、ストロングがここからどう仲間と向き合って行くかが大切なんです。時間がかかりますが、皆さんも向き合っていきましょう。それでは、終わります。」

 ヴィントは、ストロングを見るとニコリとし、ストロングはそれを見て、会釈した。

 会見もお開きになり、熊達は各家々に戻っていった。

「そんで、お前さんはどうするんじゃ。群に加わって狩りでもするかの?」

「先生、ごめんなさい。オイラ一晩考えたんだけど、ペンギンを親元に返す旅にでようかと思うんだ。」

「な、なんと!わしと同じ考えをしておったか!成長したの、わしゃ嬉しいぞ。」

 先生は、ホロリと涙を流しストロングの頭をわしゃわしゃと撫でた。それを聞いていたヴィントは、険しい顔をして寄ってきた。

「群れの話はどうするんだ?」

「親元に返すまで、待っててくれないか?わがまま言って申し訳ないけど、一生に一度の頼みだ。お願いだ!」

 ヴィントは、驚愕の表情をした後、地面に目線を送り深く考えた末ため息混じりに言った。

「はあ‥しょうがない。みんなには俺から説明しておくよ。でも必ず戻ってこいよ!その時は、群れに入ってビシバシしごいてやるから覚悟しておけよ。」

 ヴィントは、笑いながら言ったが目は笑っていなかった。その表情を見てなぜか少し安心した。

「そういえば、ペンギンは何処にいるんだ?」

「あらぁ!こんなとこに居たのね!ストロングさん、ヴィントの母です、お世話になっています〜。」

 ストロングより体長が大きく、自分の身長よりも高いため萎縮したが挨拶をしないといけないと思い丁寧な言葉を並べて言い放った。

「あ、どうもです。初めましてストロングです。こちらこそお世話になっておりましゅ。」見事に噛んでしまい、赤面した。

 ヴィントと先生は後ろで笑いを堪えていた。

「ペンギンさんに言葉を教えていたんですが‥実は‥私‥。ウフフフ。」

 母熊は涎を垂らし嘲笑った、その表情は悪意に満ちており見るものを畏怖させるものがあった。

「ペンギンに、何かあったんです?」

「フッフフフ‥あまりにも可愛すぎて、ギュッとしたら潰れてしまいました。アハハハハハー!」

 ストロングは膝から崩れ落ち、放心状態となり虚空を見つめている。

 

「あらあら、冗談よ。悪戯が大好きなの。ごめんなさいね。」

「母さん!悪戯の域が超えてるよ!どうするんだよ、ストロングの魂が抜けちゃってるじゃないか!」

 ストロングは、口を開け仰向けになっている。

「ほれ!起きんかい!嘘じゃとよ!」

「え?嘘だったの?本当に潰れたかと思ったじゃないか‥。」

 ストロングは起き上がり、深呼吸をした。

「ごめんな、昔から悪戯が好きな母さんなんだ‥俺も父もいつもされてるんだ。いちいち度が過ぎてるから悪意がありすぎる。そんなことよりペンギンは?」

「ホホホホ、もうすぐこちらに来る頃よ。」

 ぺたぺたと走る音が聞こえ、四匹は音が聞こえる所に耳を傾けた。息を切らしながらストロングの足元に寄り添った。

「す‥すと‥すとろんぐ!ただいまぁ!」

 その場にいた三匹は目を丸くし叫んだ。

「「「しゃ、喋ったあああぁぁぁ!!」」」

「こんな短時間で、喋るとは、どうゆう教育を促したんじゃ!?」

「母さん、何したんだ!?まさかまた、悪戯して腹話術とかしてんじゃないだろうな!?」

「おおお!ペンギン、喋れるようになったのか!ウオオオオ!!」三匹は、慌てふためき興奮している。

「だまらっしゃい!!」

 母熊が大声を出すと、三匹は硬直し直立不動した。例えると、拡声器で、耳の近くで叫ばれたような感じだ。

「私はただ簡単な言葉を教えただけよ。この子短時間で覚えるから凄いわぁ。」

「そうじゃったのか‥凄い才能を持っておるな‥。わしは先生じゃぞい?」

「せ‥せんせい?」

「可愛いぃ!先生じゃと!あぁ、癒されるぅん‥はっ!」

「先生、あんたそう言う目でうちの子を見ていたのね‥。なんか嫌だわ‥。」

「先生、そういうご趣味を‥。」

「違うんじゃあ‥。ストロング助けて‥。」

「先生は先生だ。こういうところも含めて先生だよ。」

「そういうことじゃ!老人の喜びを奪うんじゃない!」

 鼻息を切らしながら自慢げに話すがなぜか説得力が感じられない。二匹は、考えるのをやめた。

「おーい!」

 空からボギーが大声を出しながら地上に降りた。

「お、ペンギンじゃないか!おはようってな。」

「おはよう!」

「喋れるようになったのか!これで俺たちとお喋りできるなぁ。そういえば、良い噂を聞いたんだ!聞いてくれよ!」

 

 ボギーは慌てて四匹の熊に語りはじめた。

 四匹は驚き喜び、また決意を決める話であった。

 

 第五章に続く