6章
第六章 過ちと未来
時刻は午後十四時を回っている頃、氷山の氷をも割れそうな声を荒げているものがいた。そう、ストロングだ。ペンギンが居なくなってしまったことで、泣いていたのだ。
「オイラの不甲斐なさで、ペンギンが何処かに行ってしまったよぉおお!うおおおん。」
ボギーは、冷静に黙ってストロングを見ていた、ボギーは思った。
(ストロングは、前にも同じようなことで、泣いていたな。どうしようもないな、はあ‥こいつは‥腹立つな)
ボギーの頭の中で何かが切れた音がした。
「コラァ!この熊公!泣くんだったらなぁ、見つかってからにしやがれってんだ!」
ストロングは、怒声に驚き恐る恐るボギーを見た。
「お前、でけぇ声で泣くんじゃねぇよ!耳が痛いだろうが!あぁ!?」
「‥‥すいません‥。」
「なんだぁ?でかい図体して声が小せえな‥もっと声出せるだろ!大きい声で喋ろや!」
ストロングは、ボギーが物凄い剣幕で捲し立てるため、驚くよりも恐怖で畏怖された。
「う‥あ‥、す、すいません!」
「よう声がでよるやないか、まぁわしは空から探すけ、お前は地上を走り回れよ。分かったな?」
「はっはい!分かりました!」
「さっさといけ!分かってるとおもうけどな‥お前の責任だからな!」
ボギーは、空に向かって羽を広げ飛び立っていった。ストロングは、突然罵詈雑言を浴びせられた衝動で一分程動けずにいた。
その頃、アザラシとペンギンは海岸に移動して話をしていた。
「どこから話しましょうか‥なぜ、一匹なのかというところにしましょう。そうですね、私だけで動くほうが楽なのです。」
「寂しくないのー?」
「えぇ、気楽で良いですよ。」
シャインは微笑した。
「うっそだー!誰かといたほうが楽しいに決まってる。」
ペンギンは手足をジタバタさせて声を荒げた。シャインはにやけた顔から真顔になりペンギンを見た後ため息をしてから話し出した。
「‥まあ、いいでしょう。あなたはよく思わなくても私は良いのですから。あと一つ、群れがいないか‥でしたね?」
「うん、なんでー?」
「長くなりますが‥よろしいでしょうか?」
「良いよー。」
アザラシは空を見つめ淡々と話し始めた。
私の名前はシャイン、南極大陸では猛獣の地位を持っていると言われているヒョウアザラシだ。皆の中心で輝けれる存在にと両親は名前をつけてくれた。私は、自分で言うのもなんだか照れ臭いが‥気さくな性格で仲間との絆も深めやすく群れのリーダー的存在だった。
「シャインさん!マジパネェっす!これからもよろしくっす!」
「私たちよりも行動力があって、頼れる存在で安心する!」
皆がしたくないことを率先して行動してきたため常に称賛されていたが、私は特に自慢することなく謙虚な姿勢でいた。
「ありがとう。また皆のために頑張るよ。」毎日が充実した日々だった。
あの出来事が起こるまでは‥。
ある朝、シャインは仲間を引き連れて散歩をしていた。
「シャインさん、もうすぐペンギンの雛シーズンですね。また食い荒らしましょうね。」
仲間の一人が、ケラケラと笑いながらシャインに話しかけてきた。
「ペンギンには、悪いけどあの肉の旨さはたまんないね。またその時は、お互いに頑張ろう。僕一匹だけじゃなく皆の力で得るもののほうが大きいしね。」
「シャ、シャインさん‥(キュン‥)」
仲間たちはシャインを尊敬の眼差しで見ていた矢先‥‥ズキューン!と大きな音が鳴り響き、氷が崩れ始めた。
「なんだ!?今の音は!シャインさん、見に行って見ましょう!」アザラシ達は海に潜り音が鳴った所へ一目散に泳いでいった。
アザラシの泳ぐスピードは、時速約二十キロあり獲物を捕まえるにはうってつけの速さだ。だがペンギンよりは遅い。
大きい音が鳴った場所の近くの岩場に隠れ、様子を観察した。
仲間の一匹は、目を薄めてシャインに語りかけた。
「あれは‥何でしょう?うちのアザラシと何かいるような。」
シャインは、目を見開き事の全てを見抜いた。
「あ、あれは!俺の両親だ!側にいるのは、人間!?なんであんな所に!」
シャインは人間を見たことがなかったが、両親から人間の姿や脅威については教えられていたため頭で理解できた。
人間は、アザラシを含め他の動物をも捕獲し何処かへ連れて行かれてしまう。そのことを頭に入れて要注意生物として認識していたのだ。
シャインは、両親を助け出そうとし体を前に出そうとしたが体が思うように動かせずにいた。動かないのではなく、動けなかった。「このままでは、俺の父さんと母さんが‥!」
「シャインさん‥俺らもなんだかあの生き物が怖いです‥。どうしたら‥。」仲間たちはプルプルと震えている。
(このままだと、父さんや母さんが殺されてしまう‥。どうすれば‥‥。)
私は、刻一刻迫られる状況の中必死に考えましたが、何も浮かんでこなかったですね。私の両親の背中から血が流れていたことにショックでパニックになっていましたから‥。その時、人間はアザラシ を囲むように四人ほど集まり出した。囲まれたアザラシ が叫んだ。
「シャイン! すまん‥‥‥。」
私はその言葉を聞いた刹那、悲しみと怒りが同時に来て言葉にならない声を出した。すると私達に気づいたのか、人間達は私の両親を何処かへ連れ去っていったのだ。
それから、私は自分を責め続け人間に対する憎悪が膨れ上がっていき、表情も声も変わった。私の仲間たちが心配をして声をかけてくれたけど、私が感情を出して怒り出すため皆離れ離れになってしまったんだ。みんなと離れて沢山後悔したけど、一番の後悔は私の両親を助けるのに何も出来なかった自分がとても情けないと、ずっと思ってる。でも‥いつか、人間どもを食い散らかしてやる、復讐を果たすと私は常々思っている!
「こんなところですね。理解できましたかね?」
「なんとなくー。分かった。」
「話は済んだことですし、そろそろあなたを食べようかと‥」
「じゃあボクが友達になってあげるー!」
「へ?」
「今は、誰も周りにいないから、ボクが友達になってあげる!」
「言ってることがよくわかりませんね。いいですか?この世界には同じ種族で共に分かち合って暮していくんですよ?第一、あなたと私では種族が‥‥」
バン!バン!
シャインが話しているのをペンギンが足を踏み鳴らし話を止め、ペンギンが話を切り出した。
「種族とか顔が違うとか関係なーい!ボクだってストロングとかボギーとか種族が違っても一緒にいるんだよ?辛いことがあっても一緒にいてあげれる!それが友達!」
鼻息を荒くシャインに巻く仕立てるペンギン。シャインは、それを聞いて考えていた。
(いつか、仲間のもとへ帰ろうと思っていた。でも信頼を取り戻すにはかなりの時間と労力が必要だ。ペンギンは俺から見て餌の一つだが、友達か‥住まいは違うけど、こういうのもいいかもしれないな。)
シャインは、ニコっと笑いペンギンの頭を撫でてこう言った。
「ありがとう。こんな俺を友達に誘ってくれて‥迷惑かけるかもしれないけどよろしく。」
「迷惑かけてもそれも許すのが友達!
「それもそうだな‥はは。」
シャインにとってこのやり取りが懐かしく感じられ仲間と共にいたことを思い出し、泣き笑いし頬に一筋の涙が零れた。
「ペンギン君、また会おう。来た道を辿ればストロング君の所に戻れるから。」
「またねー!バイバーイ!」
シャインは、ニコリと穏やかな表情をした後その場を離れていった。
一方その頃‥‥。
ストロングは、のそのそと歩きペンギンを探していた。
「おーい。ペンギンやーい。見つからないな‥ボギーに顔向けできないな。」
その場に座り込みため息を吐いていじけていた。すると、後ろからペタペタと音を出しながら近づいてくるのが聞こえた。
「あのぉ、すいません。」
「え?ペンギン?」
頭はボサボサで、顔はこけている一匹のペンギンがストロングに話しかけて来た。
第六章 完
第5章
第五章 旅立ち
ペンギンが話せたことで喜ぶストロング達の元に空から現れたボギーは良い噂を持ってきた。
「おい聞いてくれよ。ここにいるペンギンの親がこの子を探しているらしいぜ。」
「何だって!?それはいいニュースじゃないか!」
「誰から聞いたんじゃ?」
「俺の悪友が話しているのを聞いたんだ。何でも、そのペンギンの目つきは鋭く今にも襲いかかってきそうな感じで、天敵にも話しかけて去っていくらしい。」
「ふむ‥子を探すなら必死だろう。ストロング達も行くとするならば、道行く動物たちに話しかけねばなならぬぞ。」
「この子の親が懸命に探しているんだったらそれに答えてあげないと、もう怖いなんて言ってられない。オイラ行くよ!必ず親元に返すよ!」
「親ってなーに?」
「君のお父さんとお母さんじゃよ。君はそこから生まれてきたんじゃ。わしらも同じなんじゃよ。」
「わかんなーい。」
「私がヴィントを産んだのよ。あなたもお母さんが必ずいるわ。寄り添うと温かいものよ。」
ヴィント母は、ヴィントに寄り添った。
「暑いから寄ってこないでよ。」
「酷いこと言うのね!この子は!‥でもそんなとこが可愛いわぁ。」
「‥僕もひっついていい?」
ペンギンは少し恥ずかしそうに尋ねた。するとヴィントの母は、にこりと微笑みながら言った。
「いいわよ、きなさい坊や。」
ペンギンはヴィントの母の胸に寄り添い引っ付いた。母の温もりは、温かく安心感に包まれ、気持ちを楽にしてくれる。ペンギンはその温もりに触れ表情が和らいでいった。
「よく分からないけど、きもちがいい。」
「そう言われると、なんだか照れ臭いわ。でも、坊やの本当の母親ならもっと気持ちがいいかもしれないわ。」
「ありがとう。ヴィントのおかあさん。」
「ストロングさん、いつ坊やを連れて旅立つのかしら?」
「明日には、旅立とうかと思います。早く会わせてあげないといけないですし。」
「じゃあもう少しこのままでいれるわね、坊や。」
ヴィントの母は、ペンギンを抱き抱え、ギュッとした。
「く、くるしぃ。」
「可愛いわねぇ!食べてしまいそうだわぁ!」
「本当に旅立ちそうだからやめてください。」
ヴィントの冷静なツッコミに対し周りは笑い、穏やかな雰囲気に包まれた。
「それじゃ、わしは木の実でも、とってくるかの。旅先にはこまらないじゃろうに。」
「今日はうんと美味しいものを用意しなくちゃ!精をつけてもらわなくちゃね!」
「母さんのご飯なんて、久々だろ?ストロング楽しみに待っててな。」
「みんなで食べる食事なんて久々で楽しみだなぁ!ペンギンと待ってるよ!」
ボギーは、ストロングに近づき恐る恐る声をかけた。
「お、俺も一緒に行っていいか?なんだか楽しそうだからさ」
「勿論だよ、ボギー。君とオイラ達はもう友達だよ!」
「と、友達かぁ‥!ありがとう、嬉しいよ。それじゃあ、お言葉に甘えるとするよ!その前に、俺も何か食べ物を調達してくる!」
ヴィント達と先生は家に戻り、ボギーは空に飛んで行き、ストロングはペンギンを背中に乗せて家路に戻っていった。
数時間後、太陽は沈み辺りは暗くなっていった。だが、ストロングの家だけは明るさがあった。電気や火は当然ないが、笑い声や明るい声が聞こえていたのだ。
「さあ、食べて!アザラシの脂マシマシよ。前に仕留めたのを地面に埋めておいたの。」
「「いただきまーす!んぅ〜、美味しい!」」
「坊やには、魚のすりつぶしをあげるわ。」
「おいしい♪」
「こんなに楽しい食事は、久々だなぁ。やっぱりみんなで食べた方がおいしいね。」
「当たり前だろ!美味しいに決まってるよ。」
「何言っているんだか‥いつもこの子リーダーをしているもんだから私のご飯食べないのよね‥。」
「うっ‥。次から食べるよ。」
「こんなに旨いのになぁ。でも群れのリーダーも大変だよな‥交代する?」
「はは、簡単に言ってくれるな、まだまだストロングじゃ無理だよ。アザラシもまともに相手にできないし、尚且つ信頼を築き上げるのに時間がいる。またこの話は無事戻ってきてからにしよう。」
「分かった。その時はよろしく頼むよ。」
食事を終え余韻に浸っていると、先生が家を訪ねてきた。
「ほれ、ストロング。木の実じゃ、なくなったら取りに行くんじゃぞ。」
「ありがとう、先生。こんな遅くまでごめんなさい。」
「なあに、きつい道のりじゃからな、お前さんの使命でも勉強でもあるんじゃ。本当に気をつけるんじゃぞ。」
「先生‥。」
すると先生の後ろからボギーがひょっこりと顔を出した。
「遅れてごめん!食べものなかったけど、花を持ってきたぜ。ナンキョクミドリナデシコっていうんだ。」
「綺麗だなぁ、ありがとうボギー!」
「俺はついていくことはできないけど、空に飛んで情報を集めてくるよ。何か分かったらすぐ駆けつけていくからさ!」
「仲間がいるってありがたいよ‥。」
「なんだ?泣いてるのか?全く子供の時から変わってないなぁ。でも、久しぶりにお前と話せて俺も嬉しいんだ。また戻ったら昔みたいに遊ぼう!土産話を期待してるよ。」
ストロングとヴィントは、涙ながらに話し合い抱きついた。
「ありがとう、みんなありがとう!頑張って探してくる。」
「吉報を待ってるぞい。
「体に気をつけて下さいね。坊やも無理しちゃだめよ?」
「はーい。」
夜二十一時になり、ヴィント達は家に戻っていった。
「明日は早いからもう寝よう。」
「はーい。」
ストロングとペンギンは、体を寄せ合い眠りについた。ストロングは夢を見た、死んだ父親が夢に現れたのだ。
「ストロング、久しぶりだな。」
「父さん!?え、何で父さんが!?」
「はは、大きくなって父さんは嬉しいぞ。しかもお前にも守るべきものが出来たんだな。俺は空から見守っているからな!頑張れよ!」
「ありがとう。父さんみたいに頑張る!」
父親はニコっと笑って消えていった。
進んでは食べて寝てを繰り返し、三日が経過した。
「明日も頑張ろう。この子のために。おやすみなさい。」
朝日が昇り、大地に恵みが芽生えていく頃、ストロングは目を覚ました。
「おーい、朝だぞー。ご飯食べよう。」
「はーい。えー!今日も魚。ボク飽きちゃった。」
「好き嫌いしないの。オイラだって脂ののったアザラシが食べたいのに、木の実なんだから。」
「ふーんだ。食べないもーん。」
「‥‥今日は魚食べて、明日はオイラが何か取ってくるから。」
ストロングはペンギンに語りかけるが、ペンギンはストロングに背を向けて座り込み頬を膨らませている。
「魚じゃやだ!違うものが食べたいから今日は行きたくないもん。」
ストロングは困り果て、一つの岩を挟み背を向けて考察を繰り返していた。
(どうしたらいいのだろう‥。まいったなぁ。)連日連夜歩きまわり、夜中も眠れずにペンギンのお守りをしていたせいかストロングは眠りについてしまった。
午前十時に差し掛かった頃、ペンギンの前に一匹の影が近づいてきた。
ズリズリと忍び寄る影は、何を隠そうアザラシだった。
「こんにちは。」
「おじさんだーれ?」
ペンギンは怖がることなく、アザラシに話しかえした。
「おじさんは、君の友達の友達のシャインと言うんだ。近くを通ったら君は魚を食べたくないって言うんだね。」
「そうなんだ。ボク、魚は飽きちゃったから食べたくないもん。」
「うんうん、飽きると何も食べたくないよね。そうだ、おじさんは今からご飯なんだけど、一緒にどうかな?」
「えっ!ボクも食べたーい!でもストロングが許してくれるかな‥。」
「許してくれるさ。ストロング君は私の友達だからね。」
「それなら、だいじょーぶだね!何が食べれるの?」
「ついてきてからのお楽しみだよ。さあ、行こうか。可愛いボク君。」
アザラシは、上手くペンギンを連れ出し、その場を離れた。
「ねえ、まだー?」
「もう少しもう少し‥。美味しい食べ物が君を待っているよ。」
アザラシは空を見上げ、目を細めてニタリと笑った。(フフフ‥。愚かなペンギンだな‥食べられるとは知らずに‥。)
数百メートル歩いただろうか、氷山が立ち並ぶところで、アザラシは足を止めた。
「あれ?着いたの?おじさん?」
「着いたとも‥ここに美味しい食べ物があるんだよ?」
「どこどこー?」
「君のことだよ!さあ!泣き叫ぶ姿を見させておくれ!」
「ボクだったのかー。なーんだ、つまんないのー。」
「‥‥なんか、調子が狂いますね‥。まあいいでしょう。私に食べられる前に何か言いたいことはあるかい?」
「んー‥。どうして一匹しかいないの?群れはいないの?」
「二つあるが‥まあ、いいでしょう。食べられる前に話しましょう‥。」
一方その頃、ストロングは午後十三時頃に目を覚ました。
「はっ!寝てしまっていた!もう昼過ぎてしまっているな。」と呟いたその時、空から木ノ実が降ってきた。
「いてて!なんだなんだ!?」
「俺だよ、寝坊助。」
「なんだ、ボギーじゃないか。」
「丁度お腹が空く時間と思ってさ!それよりペンギンは元気か?」
「実は、魚に飽きちゃったみたいで、頬を膨らませて怒っているんだよ。なんとかしてくれないかな?」
「ははは!ちょっとした喧嘩してんのか!」
「すぐ後ろにいるから話して欲しい。」
「まっかせな!おーい、ペン‥‥あれ?いないぞ?」
「え?」ストロングは岩の後ろを確認するがそこには何もなかった。
ボギーとストロングは血の気が引きお互いの顔を合わせた。
「お、おい‥。確かにここにいたんだよな?」
「‥‥。また、やってしまった。」
ストロングは手を頭に置き、項垂れた。二匹は言葉をなくし、立ち尽くした。
そう、またやらかしたのだ。
第五章 完
空ペン4しょー
第四章
一方その頃、ボギーとペンギンは空について語っていた。空の雄大さ、偉大さ、そして空を飛んでいるものにしか分からないもの、自由があること。
「悪いことだってあるけど、良いことだってあるんだ。例えば、身内に怒られたことがあっても空に飛んでさ見下ろすと、どの動物もちっこい豆粒にしか見えなくてさ。結局俺らは、ちっさいんだなって思って気分が晴れるってもんよ。へへっ!」
初めて友達が出来たような嬉しさで、ボギーはペンギンに話していた。ボギーは、生まれながらにして、厳格な父親と母親のもとで育ち、規律正しい生活をしていた。是々非々の躾をされて初めは従っていたがあることで嫌になって両親と疎遠になった。
「何故だ!何故お前は、ペンギンの雛や卵を取ってこないんだ!我々の食事をなくす気か?全く情けない。」
「本当よね、あなた‥。育て方を間違えたのかしら。」
両親が激怒されている理由は、ボギーが狩猟をしてこないのが理由であった。前章でもあるように、生きたものをそのまま食べることが出来ないのだ。
ここで雛の食べ方を紹介しよう。まず捕まえたら嘴で突き絶命させ、嘴で雛の体を突きながら内臓を食べていく、また二匹で協力し一匹は頭を嘴で啄み、もう一匹で皮を剥ぐ作業をし、啄んでいくのである。
「生きているものを殺して食べることは自分には無理です!既に死んでいるものは辛うじて食べることは出来るけど‥。」
ボギーは必死に伝え弁解しようとしたが、両親は嘲笑った。
「はっはっは!可笑しなことを言うんだな、こいつは!覚えてないかも知らんが、お前がまだ幼い頃はよく私が取ってきたペンギンの雛の肉を食べていたぞ?内臓をな。私たちでも食べないような目玉を嬉しそうに食べていたのにな‥はっはっは!」
「そうよねぇ、目玉を啄んで美味しいって言ってたわね。フフフフ‥。」
知られたくもない過去を次々と嘲笑しながら話す両親、ボギーの目には悪魔のように見えた。
(やめろ!やめてくれ‥それ以上聞きたくない!)
ボギーの目から涙が溢れた、怒りと悲しみが混ざったものだった。
「お前らは、もう親でもなんでもない!俺を脅かす悪魔だ!金輪際関わるな!」
親元を離れ、飛び去って行った。大声を聞いた幼馴染み二匹がボギーに駆け寄ってきた。
「おい、どこに行くんだ?なんか面白そうだから俺たちもついていくぜ?」
「そうそう!餌は俺らに任せな!分け前をくれてやるからさ。」
((こいつを揺さぶれば楽ができそうだ。))
そして今に至る訳である。
太陽が沈み真っ暗になった時、ペンギンの体は揺さぶり始めそのまま眠りについた。
(俺の話が長すぎたかな‥自分の嫌なことも思い出してしまった。でもこんなになるまで、俺の話を聞いてくれた奴は、初めてだ。いきなり連れて行って怖かったよな、ごめんな。)
二匹は寄り添い眠りについた。氷の上は、冷たく体が冷えるほどだったが、何故だか気持ちが良かった。
日本時間にして、午前九時頃に三十頭以上の南極熊が集まった。ヴィントの号令によるものだ。
「皆さんおはようございます。ヴィントです。先日皆さんもご存知かも知れませんが、ペンギンの雛が何処かへ行きました。自分の子供だと思って捜索をお願いします。また、雛の天敵は非常に多いです。アザラシやカモメ等いるため、名前を呼ばずに声を出してください。では!捜索開始します!」
「「ウオオオオォォォォ!!!」」
三十匹以上の熊達が天地を揺るがすような声を上げた。一目散に分かれて捜索を開始した。
「皆が自分のために体を張って探してくれているんだ!必ず見つけ出すぞ!」
ストロングはペンギンが居なくなった場所に着いて必死に探し始めると陰から黒いものがズリズリとこちらに近づいてきた。
「おやおや、誰かと思えば図体は大きいが臆病者のストロング君じゃないか。何かお探しかね?」
「アザラシか‥。あっちに行け!お前と話している暇はない!」
「おお‥怖い怖い‥。でも良ければ力になりますよ。餌さえ貰えればね‥。例えばペンギンの雛とか私は大好物でね。」
アザラシの口から涎が垂れて牙を出しニヤリとしている。
ストロングの体がビクリとしたが、ここで臆してはバレてしまうと思い、声を荒げた。
「煩いな!何処かに行かないと、頭からかぶりつくぞ!」
「怖いことを言うねぇ。本当に食べられそうだ‥。お暇しておこう。向こうから君のお仲間が走ってくるからね‥フフフ。」
アザラシは海に潜り去って行った。
「おい、ストロング!何かあったのか?」
駆けつけたヴィントが声をかけてきた。
「嫌味ったらしいアザラシが声をかけてきたんだ。」
「あのアザラシか‥名前はシャイン。名前と性格が逆な奴で、食べる気もしない。」
「シャインか、覚えておくか。引き続き探そう。」
一方、カモメと雛はというと、目を覚ましご飯を食べていた。
「魚は美味いか?丸呑みしていったけど、味は分かるのか?」
「プー!」ペンギンは喜んでいる。
「そうか、それは良かった。食べたら元の場所へ連れて帰ってやるから安心しな。」
朝食を終えて、雛をカモメの足で掴み空に飛び立った。空は真っ青で太陽が出ており地上の雪が太陽に照らされてキラキラと光っている。
「いい天気でいい景色だろう?俺らはいつもこういう景色を眺めているんだ。地上の素晴らしさってものをペンギンも探してみてな。色んなものに溢れてるはずさ!そして、俺は空を、ペンギンは地上の話を聞かせてくれよ?」
「ププー!」
そうこうしている間に岩場に差し掛かった、今まで静かだった場所から熊の声が沢山聞こえてきた。
「な、なんだ‥ありゃあ‥?南極熊が大勢おるぞ‥。」ボギーはすぐさま迂回をし、岩場にペンギンを降ろして様子を伺った。
「ちょっと耳を澄ませてみるか。静かにしててな。」
ボギーは耳を済ませ耳に集中した。
「おい、見つかったか?」
「全然ダメだ。静かに話すがなかなかペンギンの雛には出会えんな。リーダーに合わす顔がないよ‥。」
ボギーは、状況を理解した。どうやら、今隣にいるペンギンを探しているということ、見つかったらまずいことになるということ‥。
「ど、どうすればいいんだ‥。見つかったら大変な目に‥。ええい、なったらなっただ。そこで待っててな!」
ボギーは身を乗り出し、熊の元に寄って行った。
「こ、こんにちはぁ。オオトウゾクカモメのボギーと申します〜。」
「ん?珍しいのが来たな。何のようだ?」
「君たち熊の中で、一番偉い熊を連れてきてもらえないかな?」
「何故だ?」
「ちょっと小耳に挟んだことがあってね‥君たちはペンギンの雛を探していないかい?有力な情報があるんだ。」
「何だと!?分かった。そこで待っててくれ。グオオォォォン!」
熊の遠吠えが響き渡る刹那、それを聞いたヴィントとストロングは声の方向に向かって走り出した。
「何だ?何があった?」
「ペンギンの雛の情報を持つ者が現れたんだ!」
「このカモメがか?教え願おう。」
「怒らないで聞いてくれよ。実は‥。」
ボギーは、ことのあらましを話し始めた。熊達は、初め表情が険しかったが徐々に表情が落ち着いてきた。
「んで、ここにペンギンの雛がいまーす。」
雛は歩いて熊達の前に出てきた。
「見つかったぞおおおお!!」
ストロングは、雛を見て涙を流した。
「良かった‥無事で良かった‥。ウオオオオ!」
「プー!」
「カモメさん、ありがとう!事情は後ほど聞きたいから、家まで来てくれないか?」
「あぁ、俺で良ければ、後お腹すいたから何か食わしてくれるとありがたい。」
ストロングの家に、先生、ヴィント、ペンギン、ボギーが集まった。
机の上には、木の実や果物等が置かれた。
「改めまして、ナンキョクオオトウゾクカモメのボギーと申します。この度は、誠に申し訳ございません。」
「私は群れのリーダーをしているヴィントです。普通なら最悪の場合あなたに食べられていると思うのですが、どういうことでしょう?」
ボギーは、生き物が食べれないことと、逃したことなど経緯を話し始めた。
「ふむ、色んな動物がおるんじゃな。勉強になるわい。食べられなくて運が良かったな?ストロング。」
「あぁ、本当に良かった。ヴィント達のおかげだよ! あ、オイラはストロング、よろしくです。」
「よろしく!でも、ペンギンが言葉を話せないから話が出来なくて、困っているんだ。」
「ストロング、お主教えてなかったのか?」
「い、いやぁ‥教えてたんだけどさ‥一行に覚えなくて‥すみません、教え方が分かりませんでした。」
「はあ‥わしもわからんけどな、ここは母熊に任せようかの。ヴィント君、頼んだぞ。」
「熊使いが悪い先生だなぁ。分かりましたよ〜。」
ヴィントは、不貞腐れながらもニコリと笑い返事をした。そのやりとりにほっこりと場を和ませた。
「さて、そろそろ寝るとするかの。外は猛吹雪じゃ、寝床を借りるぞ。」
「ここにいる皆で寝ようか。安心したら眠くなってきましたよ。」
ペンギンも欠伸をして、眠りについた。
朝になり、ヴィントは熊達を集めた。ペンギンの発見、ストロングのお礼会見を開いた。
「皆さん、おはようございます!これよりストロングから挨拶があると思うので、少しお時間をください。では、お願いします。
「皆さん、えーと‥ストロングです。群から離れて一人で暮らしていたけど、今回の件もあってペンギンのことで協力してくださり、ありがとうございます!オイラ‥怖がりで仲間にどう思われている、どんなことを言われているのかも知らなくて、それが怖くて群から離れていました。でも、ペンギンと暮らすうちに仲間のありがたさ、孤独よりも誰かがいる大切さを学びました。一匹では、何もできないことを悟りました。」
熊達は、言葉はめちゃくちゃだけど、頷きながら聞いていた。仲間はすぐできるものじゃなく、信頼関係が構築されて初めて仲間といえるものである。
「今こうしてこの場に立たせて貰っているのは、自分一匹でなく、皆のおかげです。本当に、ありがとうございます。言いづらいけど、また群に仲間に入れてくれませんか?」
ストロングは、涙を流し熊達に言った。誰にも話したことがないことを言うのは、勇気が必要である。一匹の熊が立ち上がり、言葉を発した。
「君がそんなに苦しんでるなんて初めて知ったよ、僕らは君のことを分かろうともしなかった。いや、群から離れている時点で分かり合おうともしなかった。」
「わ、私も!何度も言おうとしたけど、噛み付かれそうで怖かった、相手にしてもらえないかと思った。でも、話をしてくれて初めてあなたの気持ちが苦しい程分かりました。」
「今回、勇気を持ってここまで話してくれて気持ちが分かったよ。でもそういうことは、話してくれても良かったんじゃないか?」
「何言ってんだよ、聞く耳もなかった奴が言うんじゃねぇよ。」
「何だと!?お前こそどうなんだ!」
ストロングの言葉に、立ち上がり賛否両論が繰り広げられるなか、ヴィントが立ち上がった。
「皆さん!争っている場合ではないです。仲間にするかどうかは、ストロングがここからどう仲間と向き合って行くかが大切なんです。時間がかかりますが、皆さんも向き合っていきましょう。それでは、終わります。」
ヴィントは、ストロングを見るとニコリとし、ストロングはそれを見て、会釈した。
会見もお開きになり、熊達は各家々に戻っていった。
「そんで、お前さんはどうするんじゃ。群に加わって狩りでもするかの?」
「先生、ごめんなさい。オイラ一晩考えたんだけど、ペンギンを親元に返す旅にでようかと思うんだ。」
「な、なんと!わしと同じ考えをしておったか!成長したの、わしゃ嬉しいぞ。」
先生は、ホロリと涙を流しストロングの頭をわしゃわしゃと撫でた。それを聞いていたヴィントは、険しい顔をして寄ってきた。
「群れの話はどうするんだ?」
「親元に返すまで、待っててくれないか?わがまま言って申し訳ないけど、一生に一度の頼みだ。お願いだ!」
ヴィントは、驚愕の表情をした後、地面に目線を送り深く考えた末ため息混じりに言った。
「はあ‥しょうがない。みんなには俺から説明しておくよ。でも必ず戻ってこいよ!その時は、群れに入ってビシバシしごいてやるから覚悟しておけよ。」
ヴィントは、笑いながら言ったが目は笑っていなかった。その表情を見てなぜか少し安心した。
「そういえば、ペンギンは何処にいるんだ?」
「あらぁ!こんなとこに居たのね!ストロングさん、ヴィントの母です、お世話になっています〜。」
ストロングより体長が大きく、自分の身長よりも高いため萎縮したが挨拶をしないといけないと思い丁寧な言葉を並べて言い放った。
「あ、どうもです。初めましてストロングです。こちらこそお世話になっておりましゅ。」見事に噛んでしまい、赤面した。
ヴィントと先生は後ろで笑いを堪えていた。
「ペンギンさんに言葉を教えていたんですが‥実は‥私‥。ウフフフ。」
母熊は涎を垂らし嘲笑った、その表情は悪意に満ちており見るものを畏怖させるものがあった。
「ペンギンに、何かあったんです?」
「フッフフフ‥あまりにも可愛すぎて、ギュッとしたら潰れてしまいました。アハハハハハー!」
ストロングは膝から崩れ落ち、放心状態となり虚空を見つめている。
「あらあら、冗談よ。悪戯が大好きなの。ごめんなさいね。」
「母さん!悪戯の域が超えてるよ!どうするんだよ、ストロングの魂が抜けちゃってるじゃないか!」
ストロングは、口を開け仰向けになっている。
「ほれ!起きんかい!嘘じゃとよ!」
「え?嘘だったの?本当に潰れたかと思ったじゃないか‥。」
ストロングは起き上がり、深呼吸をした。
「ごめんな、昔から悪戯が好きな母さんなんだ‥俺も父もいつもされてるんだ。いちいち度が過ぎてるから悪意がありすぎる。そんなことよりペンギンは?」
「ホホホホ、もうすぐこちらに来る頃よ。」
ぺたぺたと走る音が聞こえ、四匹は音が聞こえる所に耳を傾けた。息を切らしながらストロングの足元に寄り添った。
「す‥すと‥すとろんぐ!ただいまぁ!」
その場にいた三匹は目を丸くし叫んだ。
「「「しゃ、喋ったあああぁぁぁ!!」」」
「こんな短時間で、喋るとは、どうゆう教育を促したんじゃ!?」
「母さん、何したんだ!?まさかまた、悪戯して腹話術とかしてんじゃないだろうな!?」
「おおお!ペンギン、喋れるようになったのか!ウオオオオ!!」三匹は、慌てふためき興奮している。
「だまらっしゃい!!」
母熊が大声を出すと、三匹は硬直し直立不動した。例えると、拡声器で、耳の近くで叫ばれたような感じだ。
「私はただ簡単な言葉を教えただけよ。この子短時間で覚えるから凄いわぁ。」
「そうじゃったのか‥凄い才能を持っておるな‥。わしは先生じゃぞい?」
「せ‥せんせい?」
「可愛いぃ!先生じゃと!あぁ、癒されるぅん‥はっ!」
「先生、あんたそう言う目でうちの子を見ていたのね‥。なんか嫌だわ‥。」
「先生、そういうご趣味を‥。」
「違うんじゃあ‥。ストロング助けて‥。」
「先生は先生だ。こういうところも含めて先生だよ。」
「そういうことじゃ!老人の喜びを奪うんじゃない!」
鼻息を切らしながら自慢げに話すがなぜか説得力が感じられない。二匹は、考えるのをやめた。
「おーい!」
空からボギーが大声を出しながら地上に降りた。
「お、ペンギンじゃないか!おはようってな。」
「おはよう!」
「喋れるようになったのか!これで俺たちとお喋りできるなぁ。そういえば、良い噂を聞いたんだ!聞いてくれよ!」
ボギーは慌てて四匹の熊に語りはじめた。
四匹は驚き喜び、また決意を決める話であった。
第五章に続く
空ペン 3章
第三章
あれからストロングは、餌をあげては言葉を教えてを繰り返していた。元々ストロングは、一人でいることに慣れてはいたが、話し相手が出来たことでより活発になっていた。
「言葉を教えるのって難しいな‥。お腹空いたし、一緒にご飯でも取りに行こうか?」
「プー!」
「じゃあ一緒に行こう!言葉は理解できるなら頭いいな〜。」
熊と雛が足を揃えて歩いていくのは異様な光景であり、周りに生息している南極熊も困惑している。
「なに、あれ?ペンギンの雛じゃない。なんで、あの臆病で役にも立たないストロングといるのかしら。」
「世間体が悪くなるから、やめてほしいよ。」とヒソヒソと話すがストロングの耳には筒抜けだ。
「ペンギンちゃん、気にするな。オラも気にしない。よくあることだったからなぁ。」
「プー?」
「海までもう少しだから、楽しく行こう。」
のしのし、ペタペタと歩いて行く。
そのころ、上空ではナンキョクオオトウゾクカモメが三匹飛んでいた。このカモメは、ペンギンの雛や卵を捕食する生き物である。
「おい、見ろよ。熊と食べ物が歩いているぜ?お前行って捕まえてこいよ。」
「そうだよ、お前捕まえるの下手だし勇気もないから丁度いいんじゃないか?」
「えぇ‥。俺は、今日も魚でいいよ。君らが言う通り下手だしさ。」
「いいから、行けっての。俺らが隙を見つけてやるから。」カモメ達は熊の行動を見張り隙を狙っている。
「おっと、ペンギンちゃん、止まれ。昨日魚を食べすぎたせいかお腹が痛いからそこら辺でうんこしてくるよ。」
「プープププ。」
ストロングは岩の影で用を足し始めた。
「しめた!今だ行ってこい!」
「うぅ、分かったよ!行きゃいいだろ!?」
カモメは急降下し、雛を足で捕まえ上空へと連れ出した。
「プ?プゥゥウウウウ!!」
「うーん、うん。もうちょっと待ってて。今日のは強敵だな‥。」
「やればできるじゃねぇか!早速ありつこうぜ!」カモメは涎を垂らしながら言った。
「その前に、おしっこしたいからさ。そこらへんでしてきていいかな?」
「あ?ったくしょうがねぇな!早く済まして連れてこいよ?逃げたらまた親父さんに言うからな!」
「あくしろよ。」
二匹のカモメは、何処かへ去っていった。
「ごめんね、ペンギンさん。少し飛ぶから暴れないでね。」カモメは、ペンギンを捕まえたまま、一気に加速し誰もこないようなところに連れ出した。
「ここは、俺の秘密の場所。誰も来ないから安心して、あと君は食べないよ。」
「プー?」
「なぜかって?生きたままのペンギンはかわいそうで食べられないのさ。突然だが自己紹介をしよう。俺の名は、ボギーさ。幽霊か妖精か分からないけどそういう由来があるみたい。その通りなんだけどね‥。君は?」
「プー‥。」
「名前が無いのか‥。じゃあペン君と呼ぼうかな。よろしく、これでペン君とは友達だ。」ボギーは、ペンギンの頭を撫でて笑った。すると、ペンギンは手をパタパタとはばかせた。
「何?どうしたの?」
「プー‥プー!」
「んー、空を飛びたいのかな?残念だけど君には無理だね。俺らみたいに羽根がないから空は飛べないかもしれない。
「‥‥プゥ。」
「でも安心して、飛びたくなったら俺が空に連れてってあげるよ。空は良いよね、風に揺られるといい気持ちなんだ。」
高揚してボギーは空を見ながら語った。
その頃、ストロングは泣き叫んでいた。
「ウオオオオン!どこ行ってしまったんだ!ペンギンちゃん‥俺が目を離した隙に消えるなんて。この腹が悪いんだ!」
ストロングは自分のお腹を自分で殴った。
「痛い‥。探さなきゃ、せっかくできた友達を、守るべきものを!」ストロングは走り回り探し回った。探し回った後には、日が暮れ夜を迎えようとしていた。諦めたストロングは寝床に戻り、うずくまった。
「俺が悪いんだ‥。俺の行いが悪い方向へ招いてしまった結果なんだ。もっと周りに気を配れるような行いをしておけばこんなことにはならなかったんだ‥。」自分を責め込み続け精神を蝕んでいき、悪い方向へと進み始めた。
ストロングの泣き声が響き周りの熊達は異変に気づき、心配して見に行く者もいた。数日が経過した後も噂は噂を呼び、遠く離れたストロングの先生の耳にも入ってきた。
「なんじゃ?ストロングが泣き叫んでいる声が聞こえたがあやつがまた何かしでかしたのかの。」父親を亡くした後のストロングは他の熊達に迷惑を何度かかけ、代弁者として先生が謝罪をしていたのだ。
「はあ‥最近ないと思ったが、また何かしでかしたのか。腰を上げるのは嫌じゃが見に行くとするか。」重い腰を上げストロングの元へと歩きだした。先生の寝床からストロングの寝床までは、それほど遠くなく走って五分で行けるが、先生は年のせいか腰痛があるため徒歩で十五分かかる道のり、視覚嗅覚聴覚も衰えて鈍くなり自宅では木の実を食べ生活をしている。
若かりし頃の先生はストロングの父親と交流があり、共に狩りをしていたため当然ストロングの存在も知っていた。父親が亡くなった後は、父親の代わりに言葉遣い、自然の理、生きるための術等を教えた。他の熊達と会わないばかりか先生以外の熊と交流するのが下手であり、いつも一匹で暮らしていたのは先生も手を焼いていた。
(あいつも、もっと他の仲間と交流すればいいんじゃが‥。)
「あ、先生じゃないですか!ご無沙汰しています!ヴィントです!今日はどうしたんですか?」
「おお、ヴィント君じゃないか。実はストロングの遠吠えをしているとの噂を小耳に挟んでな。何か知っとるか?」
「あー‥、存じています。なんでもペンギンの雛と一緒に暮らしていて、そのペンギンが何処か行ってしまったらしいです。」
「むう‥そういうことか。教えてくれてすまんの、ヴィント君。」
ヴィントは群れの中で最も信頼できるリーダー的存在であり、交流が滅多にないストロングのことは気にしていた。昔はストロングと幼馴染みで、よく遊びよく話していた熊である。大人になるにつれ疎遠になってしまっていた。そうこう話しているうちにストロングの家に着いた。
「では、先生、失礼します。ストロングをよろしくお願いします。」
ヴィントは、去っていった。
「おい、ストロング。何をしとるんじゃ?皆お前さんのことを心配してるぞ。」
「‥‥。もうほっといてくれ。」
「何じゃ、ここまできてやったのに‥おー腰が痛いわい。それよりペンギンは元気か?」
「はは‥いたけど、どっかに行ってしまった。仲間が出来たと思って大事にしてきたけど、結局オイラをおいてどこかにいったよ‥‥もういいだろ。俺一匹にさせてくれ。」
「声に元気がないようじゃが、ちゃんと食べて‥お前さん、本当にストロングか?」
精神を蝕みストロングの頬はこけ、身体は細くなっており骨がうっすらと見えていた。
「ろくに飯も食べていないし、病んでおるな。ほれ、わしの夕食木の実を持ってきたぞ。食べんか、昔はよく食べたじゃろ。」
「うう、うるさいジジィだ!オイラのことはほっといてくれよ!二度と関わるな!」
響きわたるような唸り声と共に先生を食ってかかりそうな勢いで起き上がった。しかし、先生はそれを見て平然としている、それもそのはず、ストロングの目と声は怒っているが体が震えているからだ。
「はあ‥全然怖くないわい。そんな輩は何匹と見てきたからのぉ。いいか?怒りとは、こうやるんじゃ!」
涎を垂らし牙を出し、爪を尖らせストロングを睨みつけた。ストロングは、その姿を見て全身が震えだし小さくなった。
「ご、ごめんなさい!先生!!ごめんなさい!」
「グルルルルル‥おー、腰が痛いわい。相変わらず怖がりじゃの、怖がりのくせに勝てもしないのに大きな声をあげおって、ちゃんと相手をみるんじゃな。でもな、そういう無謀なところは嫌いじゃないぞ?無謀なことをするのは、勇気が必要じゃからの。さあーて、話を聞こうじゃないか。」
先生とストロングは、木の実をボリボリと食べながらペンギンの話を始めた。いなくなった経緯、いなくなった場所等を先生に伝えた。それと同時にストロングは誰かと話し合えることで徐々に心に安心が生まれ心を開き始めた。
「大きな岩があるとこで、オイラが用を足していて‥。」
「まて‥あそこは危険な場所と知らなかったのか?わしらは大丈夫だとしてもペンギンにとって‥雛にとってはとても危険な場所じゃぞ!」
「オオトウゾクカモメか!ってことは何処かに行ったんじゃなく、連れ去られた可能性は無きにしも非ずだ!そんなに遠くには行っていないと思うから、明日朝一に探しに行くよ!」
「良い方法じゃが、お前一匹じゃなくわしも巻き込め!あとは‥ヴィント君、おるんじゃろ?」
「はは‥バレてましたか。まあ、思ったより元気で良かった。僕たちも協力するよ。ストロング、君は一匹じゃない、僕たちは見た目は違っても同じ種族、共に助け合うことが大事なんだ。」
「ヴィント‥凄く助かるよ‥あり「おっとお礼は雛が見つかってからにしてくれよ?ただし、君には難しいかもしれないけど、僕と先生とみんなの前で言うんだぞ?」
「背に腹は変えられない!分かった!」
支え合う仲間は少なくても一匹一匹が声をかければ数珠繋ぎのように連絡が行き次々と増えて明日の捜索には南極熊三十匹が集まることになった。
四章に続く
空とペンギン 2章
第二章
泣き崩れるソウタ、その横でティマが石を奇怪な表情で見ていたが、あることに気づいた。
「ソウタ、お前の奥さんって、凄く怖くなかったか?取り敢えず泣くのをやめろ。何事かと寄ってきちまうだろ。」とは言うもののえずきながら涙が止まらないソウタ。
「うっ‥うぅ‥妻も怖いけど、一人ぼっちになった俺の子供のほうがもっと怖さを知るんだ。俺は、妻にことの全てを話す!」
「待て待て!待てって!取り敢えずこの石を子供と思って育ててみないか?」
「見たらすぐバレるだろ!?話してスッキリした方が‥」言いかけた瞬間のことだった、ソウタの妻がこっちに向かってきたのだった。
ソウタの妻、サリーはとてもパワフルで家庭的なメスペンギンだ。身籠る前は、一度些細なことで喧嘩になり、サリーに頭を叩かれソウタは地面にめり込んだことがあった。二度と逆らわないと胸に刻んだはずなのに、話しに行ったらわざわざ死にに行くようなものである。
「ティマ、やっぱり本当の事は言えないが卵落としてきたって嘘をついて俺は我が子を探しに行く!」錯乱するソウタはティマに目線を送るが、ティマは深く溜め息をつき、ソウタの肩に手を置いた。
「俺が探しに行く。だから、代わりに俺の卵を育ててくれないか?産まれる前には必ず戻ってくる。」
「そんな!でも!うぅ‥‥すまない!すまない! 俺が君の卵を温める。」
「大船に乗ったつもりで期待しててくれ!じゃあ行ってくる!」ティマはソウタに卵を渡し、海に潜水して行った。
「ティマ頼む‥。」そう願った束の間、後ろからサリーがやってきた。
「あら、ソウタじゃない!どうしたの?」
「なんでもないよ。僕たちの子供が元気で育ってくれるといいね。」
「そうね!私たちの可愛い赤ちゃん。」サリーは、卵に頬擦りした。
(ティマ、俺もこの状況が打破出来るよう頑張るから、俺たちの本当の子供を見つけてくれ‥頼む)ソウタは晴々とした空を見つめ祈りを捧げた。
とある南極大陸の場所に一匹の動物が地響きをあげ歩いていた。近年人間によって発見された南極熊である。体毛は茶色い熊でアザラシを捕食する、捕食方法はアザラシの脂身を好物とし赤身はお腹が減っていない限り残す。
「あーあ、お腹空いたなー。ここんとこまともにご飯食べてないから余計に腹が減るわ。穴でも掘るか。」南極熊は、穴を掘り食べ物を探し始めた。掘っても何も出ないことは自分でも分かるが飢え凌ぎに掘りに掘ったところ、アザラシの赤身が出てきた。
「これあんまり好きじゃないんだよなぁ、まあ食うか。」他に食べるものがないので、貪り始めた。好きな食べ物ではないためか、まだお腹が空いている南極熊は別の場所を掘り始めた。
「なんかないか‥‥ん?なんだこれはぁ。何かの卵だなぁ。何か動いてる気がするようなしないような‥育てたら美味しいものが産まれたりして。いっちょやってみるか。」
卵を持ち帰り自分の住処に戻った南極熊は、自分のお腹の中で温めてみた。
「うわぁ、冷たい卵だぁ!お腹が冷えるな〜。我慢してこのまま寝よう。おやすみ卵ちゃん。」どんな動物が生まれてくるのか分からないが何日もかけ卵を温めては持ち歩いて散歩したり話しかけたりした。他の仲間には変な目で見られたりしたが、この熊は気にもしなかった。
「卵ちゃん、オラの名前はストロング!産まれてきたらよろしくね!強いって意味らしいけど、オラは争いごとが嫌いだから皆オラを避けてるけど卵ちゃんはどう思うのかなぁ。今日も寝よう。おやすみー。」優しく語りかけながら眠りについた。ストロングは、夢を見た。それは父親の夢だった、幼少期に父親とよく行動してアザラシの捕食の仕方、仲間との交流等を教えてもらっていた。父親は、仲間や家族を守る為なら自ら自分の命を差し出す程強い熊、まさにリーダー的存在だ。
だが、父親は人間に撃たれて死亡してしまった‥。最期に残した言葉は、「お前は、俺みたいになれとは言わないけど、好きな道を選んで進めよ。」と息を引き取った。たまに見る父親の夢でうなされる。
「うわぁあああ!父さん!と、父さん‥。またあの夢か‥好きな道は選んできてるけど、やっぱり自分一匹だけじゃダメだよな‥。」ストロングの目から一粒の涙が頬を濡らした。
あれからストロングの高温度のお腹で温められたおかげか卵から雛が生まれた。
「おほっ!産まれた!んん、これはペンギンの子だなぁ。食べれることは出来るけど、自分の子だと思って育ててみるか!」
「プープープププッ!」ペンギンの雛はお腹が空いているようだ。ペンギンの雛が食べるものは、親ペンギンが食べて消化したものを吐き出して口移しで食べさす。動物園だと、飼育員が魚をミキサーして食べさしている。だがストロングには当然初めてなことなので、餌のあげかたが分からない。
「どうしたら良いんだろう。そうだ!先生に聞いてみよう!」ストロングには先生という物知りの南極熊が近くに生息しているみたいで、すぐさま走って先生のもとへ飛んで行った。
「先生!久しぶりです!ストロングです!」
「久しぶりに顔を出しおって、何か用か?」
「ペンギンについて調べてまして、雛のご飯は何食べているんですか?」あえて雛がいることは秘密にしておいた。
「ほう、なぜそのようなことを聞くか知らんが‥まあ教えよう。」先生は語りストロングに分かりやすく教えた。
「流石物知りですね!ありがとうございます。では!」話を聞くと直ぐ穴蔵に飛んで行った。
「あやつは何考えてるか知らんが、やることが見つかってよかったのぉ。」
穴蔵に戻ると、ペンギンの雛は声を大きくさせて鳴き叫んでいた。
「プー!プー!」
「あぁ!うるさい声で耳が壊れそうだ!早くご飯を作ってあげないとな。」
熊の聴覚と嗅覚はとても優れており、遠く離れた場所の音なども聞き分けるためペンギンの大きな鳴き声は、例えるとメガホンで叫ばれているぐらいだ。
ストロングは海の中でサクッと取ってきた魚を口の中に頬張り鋭利な牙でバリバリ音を立てて噛み締めた。
「このぐらいか?結構くちゃくちゃにしたんだけど‥このぐらいだな!」ストロングは舌の上に魚のようなものを乗せて雛に差し出した。
「おお!はへへる!はへへる!‥いぇっ!」
舌をついばまれたため、激痛が走る。
「うぅ、痛い‥。けど、喜んでいるから、まあいっか。」雛はお腹が膨れたのかストロングの隣でうたた寝した。
「可愛いな、明日はもっと食べさせてやるからな!」ストロングは、この雛が隣にいることでぽっかり空いた心が癒されていくような感覚になっていった。
第二章 完
出したような出てないような
空とペンギン
「ようし、ようやく私にも子どもが出来たぞ!うう‥今日も冷えるなぁ。」
妻と熱い夜を過ごし託された我が子。
愛する妻のため、父が育児を奮起する。
雄のコウテイペンギンは、足の甲に卵を乗せ父親のお腹の皮をかぶせて六十日間自分が巣となり仲間とくっつき耐え忍ぶ。
「今日は一段と冷えるな‥育児も大変だが、歩くのも結構きつく感じないか?」
隣で一緒に歩いていた友達に話しかける。
父ペンギンの名前は、ソウタ。仲間想いで真面目な面をもつ。友達は幼馴染みでお互い結婚するまでは、よく遊びまわった仲である。友達の名前は、ティマ。ソウタを連れ回し冒険することが好きなペンギンだ。
「そうだな‥まさか、育児も冒険みたいにあちこち歩き回るとは思いもしなかったなー。」
長くなるが説明させていただきたい。詳細知らねばこの物語は進まない。
夏は海で一ヶ月、秋になると産卵のため海辺の天敵を避け内陸に向けて五十キロ歩く。その期間約一ヶ月。メスは卵を産むとヒナの餌をとりに、また一ヶ月近くかけて海にもどる。その期間オスは卵を温める。
長文失礼しました。
ソウタは、うなずきながら言った。「ティマ君、君とは長く遊びまわって冒険したりもしたけど、確かに育児も冒険みたいだ。天敵もいるから覚悟も必要、突然出てくるアザラシ、我が子を狙ってくる鳥、海には丸呑みしてくるシャチ。まるっきり冒険だな!」と笑いながらソウタは話す。
「やっぱりソウタもそう思うか。まあでもこの子の命は死んでも守り切ってやらないとな。無事に産まれてきたら、俺たちみたいに外の景色、匂い、様々な経験をさせてやりたい!」ティマは自分達が経験したことを我が子にもして欲しいと熱く語り懇願した。
するとどうだろう‥ソウタとティマの話し声に共鳴するかのように足の甲に乗せた卵が少し動いた。
「お、おい!ティマ!今俺の子が動いたぞ!」焦りながらも嬉しそうにティスに話すソウタにティマは、「ああ!俺の子も少しだが動いた!大事に育てていきたいもんだ。」
極寒の大吹雪のなか、季節は秋を迎えソウタ達は歩き続けるが、突如、突風が襲いかかる。
「この吹雪は、あの時以来だな!ソウタ!覚えているか?あの時のことを!」ティマはソウタに聴こえるよう大きな声で話した。
「ああ!俺たちが探索していた時だな。今でも忘れない。」顔をしかめながらソウタは語りだした‥。
今から二年前のこと、ソウタとティマがまだ南極大陸を探索し、旅をしていた頃の話である。
「おい!ソウタ!暇ならまたこの辺りの探索をしに行こうぜ!まだ見ない世界が俺を待っているんだ!」ティマは目を輝かせながら言い放った。
「相変わらず熱い奴だな‥でも、その考え嫌いじゃない。ここで廃る訳にはいかないよな!行こう!」ソウタは飛び起き上がりティマと歩き出した。
まだ明るい日が続くとはいえ、寒さが変わらない南極大陸。天候が突然変わることもしばしばある。
「そんで、何を探しに行くんだ?嫁さん探しに行くのか?」
「くぁー!これだからエロペンギンは!だから嫁が出来ないんだよ。俺もだけどな。」
「ったく、声がでかいんだよ。お前は!聞かれたら嫁さん出来ないだろうが‥。」
「ソウタよ‥まだ誰も見たことがない景色を見に行くんだよ。景色さえ知ってれば嫁さんも簡単に落ちると思わないかい?」
「おお!たまにはいい事考えるじゃないか。つまりデートコースを探しに行くってことだな?」
「そーいう事!流石俺の友よ。物わかりがいいエロペンギンだ!」ティマはソウタの頭を軽く撫でニヤニヤ笑っている。
「エロペンギンは余計だ!俺は想像力があるってことだけだ。まだ経験もない‥って何を言わせるんだ!」
「可愛い可愛いソウタ〜♪ってか!あはははは!」
お互いふざけ合いながら歩き基地から離れていく。数キロほど歩くと広場に出た、太陽に照らされた氷の地面はキラキラと光り輝き見るものを魅了する。
すると遠くの方でソウタが何かを見つけた。カタカタと少し震えている。
「ティ、ティマ‥?あれは‥なんだ?黒くて大きいものが動いてるように見えるんだが?」
「あん?よく見えないなぁ、お前はよく見えるな〜確かに黒いのは見えるけどな!」
というのも、ペンギンの視力は地上では、人間でいうと0.3程しかない。
「そこの物陰から見ないか?少し見える気がする。慎重に静かにな。」
「わ、分かった。」
ソウタ達は静かに物陰に隠れ覗いた。それは黒い何かが何かを貪っていることが確認できた。
「あんなのと遭遇したらもしかしたら食べられるかもしれない。今日はもう帰ろう。」
「ええー。ここまで来て帰るって言うのか?俺は迂回してでも行くよ。」
「何言ってるんだ。食べ物に夢中になっている間に帰ろう。危険すぎる。」
「それでいいのか?嫁さん出来ないぞ!ほらほら!」
「気、気づかれる!!やめろ!‥‥あっ。」
黒い物体がソウタ達に振り向いた。
「逃げるぞ!全力で滑れ!」
「お、おう!海を見つけたら潜って家まで滑っていくぞ!」
後ろから唸り声と咆哮が聴こえ身の毛がよだち足がすくむくらい怖い思いで、滑って海に潜り家に帰った。
「あれは、何だったんだろうな‥でもこうして生きて帰れて良かったもんだ。」
「あの時は、調子に乗ってすまん。ソウタの言う通りにして良かったよ。」
「気にするなよ、友達だろ?」
「ありがとな。さて気長に行きますか!」
吹き荒れる吹雪も止み目的の場所へと着いたソウタ達。長い距離を寒いなか歩いたおかげで疲れが溜まっていた。
「ふあ〜あ。眠いから少し立って寝るわ。ティマは?」
「俺も少し休もうかな‥。足が疲れてしまった。俺の子が足に乗っているからか痺れてきた。」
「少し寝てまたご飯食べて育児しよう。おやすみ、俺の子‥ん?なんだか足が冷たく感じるな、よいしょっと! えっ!」
「どうしたソウタ?自分の子が巣立ったとか?」
「ティマ‥卵ってこんな色してたっけ?」
「はあ‥ボケたんかね〜白くて丸いだろ?なんだその、灰色?それとも変異?」
「これ‥卵じゃない!石だ!なんで!なんで卵が石になってるんだ!?そ、そんな‥どうして‥。」
落胆し倒れるソウタ、ティマは涙を流すソウタに抱きつき一生懸命励ました。
「大丈夫!きっとどこかにいるはず!大丈夫だ!」
泣き崩れるソウタは南極大陸を揺るがすほど泣いていた。
第一章 完
出そうか悩んだ末出します
僕の夢物語
毎日寝床に入り眠ると、必ずなんらかの夢を見る。夢というものは、不思議だ。夢の中では、自覚すれば何でもできる。超能力が使えたり、普段何も出来ないことが出来る様になったりする。ごく稀に、予知夢というものかある。予知夢とは、正月に見る正夢のようなものと酷似している。
私が見たことがあるのは、プールの水が真っ赤に染まり、子供が洗面台に向かって蛇口をひねると、茶色い水が出てくる。周りは、死骸だらけで人が積み上げられている様子を歩いて見ていたことだ。
朝目を覚ますと、何事もなかったようにいつもの生活が戻ってくる。私は居間に行きテレビを点けると、外国で大地震が起こっていて死者もかなりでているということだ。そこで、子供が蛇口をひねると茶色の水、血溜まりの川が見えた。
夢と同じ風景だった。私は、震え上がり夢と現実の区別ができなくなっていた。姉に、見た夢とテレビのことを話すと、予知夢ということが判明した。
普段何気ない夢を見ていても、時折違う夢を見ることがあるんだと思った。これが、私の体験談である。
最近では、自分にとって恐ろしい夢を見た。彼女と別れてすぐ寝床に入り眠りにつくと、彼女の夢を見た。思い込みが激しいと夢に出てくるのかと思って夢を見ていた。
彼女は、スマホを見ていた。すると、カメラモードに切り替わり周囲を映していく。自分の足まで来た時、人の顔が見えた。見覚えのある顔、私は、ハッと気づいた。
(そうか‥やっぱりそうなのか‥。)
目が覚め起きた時間は冬の朝五時、その後寝付けずに起きていた。窓を開けていたせいか部屋は寒く、身が震えていたが外気温で寒いせいではないようだ。私にとっては、見たくもない夢だった。これが、後に分かることなのかは、不明だがもう二度と見たくないものである。
夢にはさまざまな種類がある‥寝る夢は、眠ることでいつでも見えるけど、起きて見る夢は、目標をもって見る、叶えれるように努力をしないといけない。
私はそう感じている。