出したような出てないような

      空とペンギン

「ようし、ようやく私にも子どもが出来たぞ!うう‥今日も冷えるなぁ。」

 妻と熱い夜を過ごし託された我が子。

 愛する妻のため、父が育児を奮起する。

 雄のコウテイペンギンは、足の甲に卵を乗せ父親のお腹の皮をかぶせて六十日間自分が巣となり仲間とくっつき耐え忍ぶ。

「今日は一段と冷えるな‥育児も大変だが、歩くのも結構きつく感じないか?」

 隣で一緒に歩いていた友達に話しかける。

 父ペンギンの名前は、ソウタ。仲間想いで真面目な面をもつ。友達は幼馴染みでお互い結婚するまでは、よく遊びまわった仲である。友達の名前は、ティマ。ソウタを連れ回し冒険することが好きなペンギンだ。

「そうだな‥まさか、育児も冒険みたいにあちこち歩き回るとは思いもしなかったなー。」

 長くなるが説明させていただきたい。詳細知らねばこの物語は進まない。

 夏は海で一ヶ月、秋になると産卵のため海辺の天敵を避け内陸に向けて五十キロ歩く。その期間約一ヶ月。メスは卵を産むとヒナの餌をとりに、また一ヶ月近くかけて海にもどる。その期間オスは卵を温める。

 長文失礼しました。

 ソウタは、うなずきながら言った。「ティマ君、君とは長く遊びまわって冒険したりもしたけど、確かに育児も冒険みたいだ。天敵もいるから覚悟も必要、突然出てくるアザラシ、我が子を狙ってくる鳥、海には丸呑みしてくるシャチ。まるっきり冒険だな!」と笑いながらソウタは話す。

「やっぱりソウタもそう思うか。まあでもこの子の命は死んでも守り切ってやらないとな。無事に産まれてきたら、俺たちみたいに外の景色、匂い、様々な経験をさせてやりたい!」ティマは自分達が経験したことを我が子にもして欲しいと熱く語り懇願した。

 するとどうだろう‥ソウタとティマの話し声に共鳴するかのように足の甲に乗せた卵が少し動いた。

「お、おい!ティマ!今俺の子が動いたぞ!」焦りながらも嬉しそうにティスに話すソウタにティマは、「ああ!俺の子も少しだが動いた!大事に育てていきたいもんだ。」

 極寒の大吹雪のなか、季節は秋を迎えソウタ達は歩き続けるが、突如、突風が襲いかかる。

「この吹雪は、あの時以来だな!ソウタ!覚えているか?あの時のことを!」ティマはソウタに聴こえるよう大きな声で話した。

「ああ!俺たちが探索していた時だな。今でも忘れない。」顔をしかめながらソウタは語りだした‥。

 今から二年前のこと、ソウタとティマがまだ南極大陸を探索し、旅をしていた頃の話である。

「おい!ソウタ!暇ならまたこの辺りの探索をしに行こうぜ!まだ見ない世界が俺を待っているんだ!」ティマは目を輝かせながら言い放った。

「相変わらず熱い奴だな‥でも、その考え嫌いじゃない。ここで廃る訳にはいかないよな!行こう!」ソウタは飛び起き上がりティマと歩き出した。

 まだ明るい日が続くとはいえ、寒さが変わらない南極大陸。天候が突然変わることもしばしばある。

「そんで、何を探しに行くんだ?嫁さん探しに行くのか?」  

「くぁー!これだからエロペンギンは!だから嫁が出来ないんだよ。俺もだけどな。」

「ったく、声がでかいんだよ。お前は!聞かれたら嫁さん出来ないだろうが‥。」

「ソウタよ‥まだ誰も見たことがない景色を見に行くんだよ。景色さえ知ってれば嫁さんも簡単に落ちると思わないかい?」

「おお!たまにはいい事考えるじゃないか。つまりデートコースを探しに行くってことだな?」

「そーいう事!流石俺の友よ。物わかりがいいエロペンギンだ!」ティマはソウタの頭を軽く撫でニヤニヤ笑っている。

「エロペンギンは余計だ!俺は想像力があるってことだけだ。まだ経験もない‥って何を言わせるんだ!」

「可愛い可愛いソウタ〜♪ってか!あはははは!」

 お互いふざけ合いながら歩き基地から離れていく。数キロほど歩くと広場に出た、太陽に照らされた氷の地面はキラキラと光り輝き見るものを魅了する。

 すると遠くの方でソウタが何かを見つけた。カタカタと少し震えている。

「ティ、ティマ‥?あれは‥なんだ?黒くて大きいものが動いてるように見えるんだが?」

「あん?よく見えないなぁ、お前はよく見えるな〜確かに黒いのは見えるけどな!」

 というのも、ペンギンの視力は地上では、人間でいうと0.3程しかない。

「そこの物陰から見ないか?少し見える気がする。慎重に静かにな。」

「わ、分かった。」

 ソウタ達は静かに物陰に隠れ覗いた。それは黒い何かが何かを貪っていることが確認できた。

「あんなのと遭遇したらもしかしたら食べられるかもしれない。今日はもう帰ろう。」

「ええー。ここまで来て帰るって言うのか?俺は迂回してでも行くよ。」

「何言ってるんだ。食べ物に夢中になっている間に帰ろう。危険すぎる。」

「それでいいのか?嫁さん出来ないぞ!ほらほら!」

「気、気づかれる!!やめろ!‥‥あっ。」

 黒い物体がソウタ達に振り向いた。

「逃げるぞ!全力で滑れ!」

「お、おう!海を見つけたら潜って家まで滑っていくぞ!」

 後ろから唸り声と咆哮が聴こえ身の毛がよだち足がすくむくらい怖い思いで、滑って海に潜り家に帰った。

 

「あれは、何だったんだろうな‥でもこうして生きて帰れて良かったもんだ。」

「あの時は、調子に乗ってすまん。ソウタの言う通りにして良かったよ。」

「気にするなよ、友達だろ?」

「ありがとな。さて気長に行きますか!」

 吹き荒れる吹雪も止み目的の場所へと着いたソウタ達。長い距離を寒いなか歩いたおかげで疲れが溜まっていた。

「ふあ〜あ。眠いから少し立って寝るわ。ティマは?」

「俺も少し休もうかな‥。足が疲れてしまった。俺の子が足に乗っているからか痺れてきた。」

「少し寝てまたご飯食べて育児しよう。おやすみ、俺の子‥ん?なんだか足が冷たく感じるな、よいしょっと! えっ!」

「どうしたソウタ?自分の子が巣立ったとか?」

「ティマ‥卵ってこんな色してたっけ?」

「はあ‥ボケたんかね〜白くて丸いだろ?なんだその、灰色?それとも変異?」

「これ‥卵じゃない!石だ!なんで!なんで卵が石になってるんだ!?そ、そんな‥どうして‥。」

 落胆し倒れるソウタ、ティマは涙を流すソウタに抱きつき一生懸命励ました。

「大丈夫!きっとどこかにいるはず!大丈夫だ!」

 泣き崩れるソウタは南極大陸を揺るがすほど泣いていた。

       

       第一章 完