第5章

    第五章  旅立ち

 

 ペンギンが話せたことで喜ぶストロング達の元に空から現れたボギーは良い噂を持ってきた。

「おい聞いてくれよ。ここにいるペンギンの親がこの子を探しているらしいぜ。」

「何だって!?それはいいニュースじゃないか!」

「誰から聞いたんじゃ?」

「俺の悪友が話しているのを聞いたんだ。何でも、そのペンギンの目つきは鋭く今にも襲いかかってきそうな感じで、天敵にも話しかけて去っていくらしい。」

「ふむ‥子を探すなら必死だろう。ストロング達も行くとするならば、道行く動物たちに話しかけねばなならぬぞ。」

「この子の親が懸命に探しているんだったらそれに答えてあげないと、もう怖いなんて言ってられない。オイラ行くよ!必ず親元に返すよ!」

「親ってなーに?」

「君のお父さんとお母さんじゃよ。君はそこから生まれてきたんじゃ。わしらも同じなんじゃよ。」

「わかんなーい。」

「私がヴィントを産んだのよ。あなたもお母さんが必ずいるわ。寄り添うと温かいものよ。」

 ヴィント母は、ヴィントに寄り添った。

「暑いから寄ってこないでよ。」

「酷いこと言うのね!この子は!‥でもそんなとこが可愛いわぁ。」

「‥僕もひっついていい?」

 ペンギンは少し恥ずかしそうに尋ねた。するとヴィントの母は、にこりと微笑みながら言った。

「いいわよ、きなさい坊や。」

 ペンギンはヴィントの母の胸に寄り添い引っ付いた。母の温もりは、温かく安心感に包まれ、気持ちを楽にしてくれる。ペンギンはその温もりに触れ表情が和らいでいった。

「よく分からないけど、きもちがいい。」

「そう言われると、なんだか照れ臭いわ。でも、坊やの本当の母親ならもっと気持ちがいいかもしれないわ。」

「ありがとう。ヴィントのおかあさん。」

「ストロングさん、いつ坊やを連れて旅立つのかしら?」

「明日には、旅立とうかと思います。早く会わせてあげないといけないですし。」

「じゃあもう少しこのままでいれるわね、坊や。」

 ヴィントの母は、ペンギンを抱き抱え、ギュッとした。

「く、くるしぃ。」

「可愛いわねぇ!食べてしまいそうだわぁ!」

「本当に旅立ちそうだからやめてください。」

 ヴィントの冷静なツッコミに対し周りは笑い、穏やかな雰囲気に包まれた。

「それじゃ、わしは木の実でも、とってくるかの。旅先にはこまらないじゃろうに。」

「今日はうんと美味しいものを用意しなくちゃ!精をつけてもらわなくちゃね!」

「母さんのご飯なんて、久々だろ?ストロング楽しみに待っててな。」

「みんなで食べる食事なんて久々で楽しみだなぁ!ペンギンと待ってるよ!」

 ボギーは、ストロングに近づき恐る恐る声をかけた。

「お、俺も一緒に行っていいか?なんだか楽しそうだからさ」

「勿論だよ、ボギー。君とオイラ達はもう友達だよ!」

「と、友達かぁ‥!ありがとう、嬉しいよ。それじゃあ、お言葉に甘えるとするよ!その前に、俺も何か食べ物を調達してくる!」

 ヴィント達と先生は家に戻り、ボギーは空に飛んで行き、ストロングはペンギンを背中に乗せて家路に戻っていった。

 数時間後、太陽は沈み辺りは暗くなっていった。だが、ストロングの家だけは明るさがあった。電気や火は当然ないが、笑い声や明るい声が聞こえていたのだ。

「さあ、食べて!アザラシの脂マシマシよ。前に仕留めたのを地面に埋めておいたの。」

「「いただきまーす!んぅ〜、美味しい!」」

「坊やには、魚のすりつぶしをあげるわ。」

「おいしい♪」

「こんなに楽しい食事は、久々だなぁ。やっぱりみんなで食べた方がおいしいね。」

「当たり前だろ!美味しいに決まってるよ。」

「何言っているんだか‥いつもこの子リーダーをしているもんだから私のご飯食べないのよね‥。」

「うっ‥。次から食べるよ。」

「こんなに旨いのになぁ。でも群れのリーダーも大変だよな‥交代する?」

「はは、簡単に言ってくれるな、まだまだストロングじゃ無理だよ。アザラシもまともに相手にできないし、尚且つ信頼を築き上げるのに時間がいる。またこの話は無事戻ってきてからにしよう。」

「分かった。その時はよろしく頼むよ。」

 食事を終え余韻に浸っていると、先生が家を訪ねてきた。

「ほれ、ストロング。木の実じゃ、なくなったら取りに行くんじゃぞ。」

「ありがとう、先生。こんな遅くまでごめんなさい。」

「なあに、きつい道のりじゃからな、お前さんの使命でも勉強でもあるんじゃ。本当に気をつけるんじゃぞ。」

「先生‥。」

 すると先生の後ろからボギーがひょっこりと顔を出した。

「遅れてごめん!食べものなかったけど、花を持ってきたぜ。ナンキョクミドリナデシコっていうんだ。」

「綺麗だなぁ、ありがとうボギー!」

「俺はついていくことはできないけど、空に飛んで情報を集めてくるよ。何か分かったらすぐ駆けつけていくからさ!」

「仲間がいるってありがたいよ‥。」

「なんだ?泣いてるのか?全く子供の時から変わってないなぁ。でも、久しぶりにお前と話せて俺も嬉しいんだ。また戻ったら昔みたいに遊ぼう!土産話を期待してるよ。」

 ストロングとヴィントは、涙ながらに話し合い抱きついた。

「ありがとう、みんなありがとう!頑張って探してくる。」

 「吉報を待ってるぞい。

「体に気をつけて下さいね。坊やも無理しちゃだめよ?」

「はーい。」

 夜二十一時になり、ヴィント達は家に戻っていった。

「明日は早いからもう寝よう。」

「はーい。」

 ストロングとペンギンは、体を寄せ合い眠りについた。ストロングは夢を見た、死んだ父親が夢に現れたのだ。

「ストロング、久しぶりだな。」

「父さん!?え、何で父さんが!?」

「はは、大きくなって父さんは嬉しいぞ。しかもお前にも守るべきものが出来たんだな。俺は空から見守っているからな!頑張れよ!」

「ありがとう。父さんみたいに頑張る!」

 父親はニコっと笑って消えていった。

 進んでは食べて寝てを繰り返し、三日が経過した。

「明日も頑張ろう。この子のために。おやすみなさい。」

 朝日が昇り、大地に恵みが芽生えていく頃、ストロングは目を覚ました。

「おーい、朝だぞー。ご飯食べよう。」

「はーい。えー!今日も魚。ボク飽きちゃった。」

「好き嫌いしないの。オイラだって脂ののったアザラシが食べたいのに、木の実なんだから。」

「ふーんだ。食べないもーん。」

「‥‥今日は魚食べて、明日はオイラが何か取ってくるから。」

 ストロングはペンギンに語りかけるが、ペンギンはストロングに背を向けて座り込み頬を膨らませている。

「魚じゃやだ!違うものが食べたいから今日は行きたくないもん。」

 ストロングは困り果て、一つの岩を挟み背を向けて考察を繰り返していた。

(どうしたらいいのだろう‥。まいったなぁ。)連日連夜歩きまわり、夜中も眠れずにペンギンのお守りをしていたせいかストロングは眠りについてしまった。

 午前十時に差し掛かった頃、ペンギンの前に一匹の影が近づいてきた。

 ズリズリと忍び寄る影は、何を隠そうアザラシだった。

「こんにちは。」

「おじさんだーれ?」

 ペンギンは怖がることなく、アザラシに話しかえした。

「おじさんは、君の友達の友達のシャインと言うんだ。近くを通ったら君は魚を食べたくないって言うんだね。」

「そうなんだ。ボク、魚は飽きちゃったから食べたくないもん。」

「うんうん、飽きると何も食べたくないよね。そうだ、おじさんは今からご飯なんだけど、一緒にどうかな?」

「えっ!ボクも食べたーい!でもストロングが許してくれるかな‥。」

「許してくれるさ。ストロング君は私の友達だからね。」

「それなら、だいじょーぶだね!何が食べれるの?」

「ついてきてからのお楽しみだよ。さあ、行こうか。可愛いボク君。」

 アザラシは、上手くペンギンを連れ出し、その場を離れた。

「ねえ、まだー?」

「もう少しもう少し‥。美味しい食べ物が君を待っているよ。」

 アザラシは空を見上げ、目を細めてニタリと笑った。(フフフ‥。愚かなペンギンだな‥食べられるとは知らずに‥。)

 数百メートル歩いただろうか、氷山が立ち並ぶところで、アザラシは足を止めた。

「あれ?着いたの?おじさん?」

「着いたとも‥ここに美味しい食べ物があるんだよ?」

「どこどこー?」

「君のことだよ!さあ!泣き叫ぶ姿を見させておくれ!」

「ボクだったのかー。なーんだ、つまんないのー。」

「‥‥なんか、調子が狂いますね‥。まあいいでしょう。私に食べられる前に何か言いたいことはあるかい?」

「んー‥。どうして一匹しかいないの?群れはいないの?」

「二つあるが‥まあ、いいでしょう。食べられる前に話しましょう‥。」

 

 一方その頃、ストロングは午後十三時頃に目を覚ました。

「はっ!寝てしまっていた!もう昼過ぎてしまっているな。」と呟いたその時、空から木ノ実が降ってきた。

「いてて!なんだなんだ!?」

「俺だよ、寝坊助。」

「なんだ、ボギーじゃないか。」

「丁度お腹が空く時間と思ってさ!それよりペンギンは元気か?」

「実は、魚に飽きちゃったみたいで、頬を膨らませて怒っているんだよ。なんとかしてくれないかな?」

「ははは!ちょっとした喧嘩してんのか!」

「すぐ後ろにいるから話して欲しい。」

「まっかせな!おーい、ペン‥‥あれ?いないぞ?」

「え?」ストロングは岩の後ろを確認するがそこには何もなかった。

 ボギーとストロングは血の気が引きお互いの顔を合わせた。

「お、おい‥。確かにここにいたんだよな?」

「‥‥。また、やってしまった。」

 ストロングは手を頭に置き、項垂れた。二匹は言葉をなくし、立ち尽くした。


 

 そう、またやらかしたのだ。

 

 第五章        完